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コーダや私の命が終わるとき、何も後悔しないように。いざ、サーフィン犬の聖地カリフォルニアへ!【サーフィン犬 コーダが教えてくれたこと 第9回前編】

世界大会の記録をもち、「めざましテレビ」「坂上どうぶつ王国」などメディアでも話題の人気サーフィン犬、コーダ。そのパートナーである浅野里実さんが、かつては「殺処分」とまで言われた咬みグセ犬、コーダと出会い、自らもドッグトレーナーとなり共に成長していく14年間の物語を綴ります。

犬と暮らす楽しさ。スポーツや遊びを通じて犬とわかり合う楽しさ――。
ドッグトレーナーになってからは、動物たち本来の性質に則ったQOL(生活の質)に配慮する「動物福祉」の考え方をもとに、飼い主と犬がより良い関係を築くためのサポートをする浅野さん。この、人間の都合だけによらない「動物福祉」の考え方が世界中で広まりつつある今、長く続いて来た“人と犬とのパートナーシップ”についてもまた、改めて考えてみたい。

コーダにまさかの癌が判明した前回。大手術から劇的回復を遂げたコーダと共に、浅野さんが次に目指したのは……?

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一番の無念は、夢が夢で終わること――。コーダと私のもう1つの夢を叶えるために迷っている時間はない

「World Dog Surfing Championships」(以下、ドッグサーフィン世界大会)は、アメリカ・カリフォルニア州パシフィカ(サンフランシスコ近郊)のリンダマー・ビーチで開催される、世界最大級のドッグサーフィン大会。ドッグサーフィン競技発祥の地であるカリフォルニアで始まり、第1回大会は2016年に開催されました。以降、毎年夏(通常は8月上旬ごろ)に開催され、世界各国からサーフィン犬が集まる一大イベントです。

 大会で行われる競技は、おもに以下の4つ。
・ドッグサーフィン(体重別)
・犬同士によるタンデムサーフィン(Dog/Dog Tandem)
・人と犬によるタンデムサーフィン(Human/Dog Tandem)
・SUP(スタンドアップパドルボード)
 競技は各ヒート10分間で行われ、出場犬はその間にできるだけ多くの波に乗ります。審査員はその演技を「ライドの長さ」「波の大きさ・質」「ボード上での安定性」「犬の自信や落ち着き」「スタイルやテクニック(トリックは加点要素になる)」などで総合的に評価、10点満点で採点。こうして各クラスの上位3頭が入賞犬として表彰され、さらに各クラスの上位2頭が総合優勝(Top Dog Championship)を競い合います。

 イタリアでギネス世界記録を獲得した後、無事帰国した矢先に癌が発覚(連載第8回)し、一時は歩けなくなってしまうほど弱ってしまったコーダ。でも、手術が成功してそこから劇的に回復、奇跡的にまた一緒にサーフィンすることができるようになりました。
「ドッグサーフィン世界大会に出場すること」は、そんなコーダと私の最後の夢になるかもしれません。

 実は、コロナ禍により2020年から始まったドッグサーフィン世界大会のオンライン審査部門では、コーダは毎年上位に入賞し賞状もメダルも獲得していました。それでも、日本ではなかなか見ることができない「本物のドッグサーフィン大会と本場のサーフィン犬」を、実際にこの目で見てみたいという憧れのような思いがずっと私の中にありました。
 その「淡い憧れ」が、コーダが癌になり、命には限りがあると改めて思い知らされたとき、「絶対に叶えたい夢」に変わったのです。一番の無念は、夢が夢で終わること。黙っていてもチャンスが巡ってくることもあるけれど、自分から叶えに行かなきゃ実現できずに終わるかもしれない。ウダウダ生きるのはもうやめようと思いました。若い頃、お酒の飲み方もよく分からなかった私は急性アルコール中毒で病院に運ばれた事があり、そのときを境に「生きたい」という思いが強くなったことも、生きている時間の尊さに気づけたきっかけのひとつだったのかもしれません。コーダや自分の命が終わるとき、何も後悔しないように。今回は、ギネス世界記録挑戦のときみたいにテレビ局のサポートもないし、英語も話せない。そんな自分1人と犬のコーダ。サーフィンの腕前だって万年初心者だけど、この挑戦は今を逃したら、これからもっと大変になっていくだろう……。そう考えて、今年開催されるドッグサーフィン世界大会に、コーダとふたりで出場しようと決めました。

本場カリフォルニアのサーフィン犬たちとの出会い

サーフィン犬がずらり勢ぞろい! 写真右からチャーリー、カーソン、コーダ、ラスティ
サーフィン犬がずらり勢ぞろい! 写真右からチャーリー、カーソン、コーダ、ラスティ

 2024年7月31日、ギネス世界記録挑戦のためのイタリア渡航から約5ヶ月後の日ざしが容赦なく照り付ける夏の朝、コーダと私はアメリカに向けて出発しました。滞在期間は1週間。飛行機代、宿泊費、動物検疫の申請にかかる日数的にも、すべてギリギリの行程です。
 今回は、日本から直行便で11時間のフライト。ミラノまでの19時間に比べたら大した距離じゃありませんが、1人と犬1頭なので荷物を持っての移動がとにかく大変! 到着したサンフランシスコの空港からは、日本から持参したカートの上に、コーダを入れるクレートと大きなスーツケースを載せ、スケボー1台を脇に抱えながら、まずは電車に乗って約1時間、検疫手続きのための動物病院に向かいました。
 でもやっぱり、旅にトラブルはつきもの。無事検疫手続きが完了し1泊目のホテルに向かっていると、3、4泊目に大会会場近くに取った犬連れOKのホテルが急遽キャンセルになったという連絡が入り、さらにはクレジットカードのWeb決済ができなくなるという緊急事態の発生です。あわや宿なし状態のピンチ。私だけならまだしも、コーダとホームレス?なんて絶対ダメ!どどどどうしよう……。もう、藁をもすがる思いで、コーダのおかげでたくさんの方にフォローしてもらっているInstagramから助けを求めてみたところ、なんと、サンディエゴでトリミングサロンを経営されている中島かおるさんという方が、すぐに宿を調べて予約までしてくださり、決裁もなんとかできました。一時は本当にどうなることかと思いましたが、今回も、たくさんのやさしい方々の助けに救われています。

 そして大会前日。その日はInstagramで繋がっていたサーフィン犬のカーソンの飼い主ジルと、会場のビーチで会う約束をしていました。会った瞬間、もう、お互い大騒ぎでハグです!
 ジルは日系アメリカ人で、パートナーと犬のカーソン、そして2025年にブラッドリーという犬を新たに迎え、現在は2人と2頭のファミリーでLAのロングビーチで暮らしています。それまでは、同じサーフィン犬を育てる者としてInstagramをお互いにフォローするだけの関係でしたが、今回大会に出場するにあたりサーフボードをレンタルできないか大会本部に問い合わせをしたところ、出場選手全員に声がけをしてくれ、なんとその中からジルが名乗りでてくれたのです。大きなサーフボードは、ただでさえ荷物の多い今回の旅に日本から持っていくのは難しい。でも、現地でレンタルするにしても、一般のボードではデッキ面がツルツル滑ってしまって犬は立つことができず使えないため、ドッグサーフィン仕様のボードをどう手配するかが大きな課題になっていました。そんなとき、ボードを無償で貸すと名乗りでてくれたジルは、今回の大会にどうしても出場したい私たちにとって、救世主になりました。さらに親切なことにジルは、貸してくれるボードのサイズと写真を日本語を交えながら事前に知らせてくれたり、現地で会った後は、日本から来ている私がひとりにならないよう、こまめに話しかけてくれたり他の仲良しメンバーに紹介してくれたりしました。おかげで、あっと言う間に私も溶け込んで意気投合。一緒にテキーラを飲んだり、踊りながら移動したり、ジルの愛犬のカーソンにスケートボードを教えたり……。まるで昔からの友達のように過ごすことができました。今もたまに手紙やクリスマスカードのやりとりをするペンパルの仲ですが、いつかまたドッグサーフィン大会で一緒の時間を過ごしたいなと思っています。

私たちにサーフボードを貸してくれた心やさしい救世主、日系アメリカ人のジルと、パートナーのサーフドッグ、カーソン
私たちにサーフボードを貸してくれた心やさしい救世主、日系アメリカ人のジルと、パートナーのサーフドッグ、カーソン
ジルが所有するドッグサーフィン仕様のサーフボード。私たちは左の2枚のボードを借りることに
ジルが所有するドッグサーフィン仕様のサーフボード。私たちは左の2枚のボードを借りることに

 サーフィンの練習はわずか15分! 大会前日に、ジルに借りたサーフボードで初めてカリフォルニアの海に入りました。私が抱いていたヤシの木にココナッツな南の島的な想像とは違い、水は氷水のように冷たくて、波にはパワーがあってなかなか乗りづらかったけれど、コーダとのタンデムサーフィン、そしてコーダだけのシングルサーフィンも、一発で乗れてうまく行きました。コーダはこんな時でも落ち着いていて、世界のどこへ行ってもやるべきことをきちんとこなし涼しい顔をしている男なのです。

 ビーチには、Instagramで見てずっと憧れていた本物のサーフィン犬たちが集まっていました。カーソン、ラスティ、アイザ、チャーリー、コア、シュガー! 彼らはリードをしていないけれど、みんな穏やかで、飼い主に注目してそばを離れないので安全です。そう、そもそもサーフィン犬は「おりこう」であることが大前提なのです。コーダも、彼らと鼻とお尻で挨拶をして、本場のドッグサーフィンの地であるカリフォルニアのビーチを楽しんでいるようでした。

大会前日に行われたパーティで。私とコーダは最前列の右から2人目
大会前日に行われたパーティで。私とコーダは最前列の右から2人目
大会前日パーティの前に、犬カップルの結婚式にも参加!
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新刊紹介

浅野里実

あさの・さとみ
ドッグトレーニングインストラクター/一級愛玩動物飼養管理士/一般社団法人ケーナインスケートボーディング協会代表理事。コーダとの出会いをきっかけに30歳でドッグトレーナーを志し、2019年より千葉県習志野にドッグスクール『Perrito』を主宰。「動物福祉」の考え方に基づき、飼い主の知識向上による動物のQOLをサポートし続けている。
パートナー犬のコーダと共に世界を舞台に活動し、2024年2月、イタリア・ミラノのTV番組内にて「世界最長の人間トンネルをスケートボードで通過する犬」でギネス世界記録を達成。同年8月、アメリカ・サンフランシスコで開催されたドッグサーフィン世界大会で銀メダル獲得。同大会のオンラインコンテストでは金メダル3枚を獲得するなど、入賞歴は累計17回を超える。

Instagram :@coda_satomimomi

Coda

コーダ
2011年10月30日生まれ。生後2か月から浅野さんと暮らす、海が大好きなイングリッシュコッカ―スパニエル(♂)。サーフィン、スケートボード、キックスケーター、スノーボードを乗りこなす。

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