2023.10.25
銀行のお声かけ係と顔の認識
一方、どうでもいいことだけは頭のなかにインプットされてしまう。先日も習い事のために外出し、少し早めに到着したので、駅の周辺を散歩がてら歩いていると、駅の裏手の路地に飲み屋街があり、その角に小さな風俗店があった。こんなところにもあるんだと思っていたら、スマホを見ながら私の横をゆっくりと追い越していった若い男性が、すっとそこに入った。私はびっくりして思わず、
「ひゃっ」
と小声でいってしまったのだが、昼の十二時半に利用する人もいるんだとわかった。そしてその店の名前と、入っていった男性の顔、服装などは鮮明に覚えている。
次は午後二時だった。駅前で買い物を済ませて帰ろうと、人通りが多い道を歩いていった。そこの道路沿いにはラブホテルがあるのだが、老若男女がその前を通っている。今日は人出が多いなと思いながら歩いていたら、向こう側から歩いてきたカップルが、大人数が歩いているというのに、堂々とドアを開けてホテルの中に入っていった。このときも私は、
「わわっ」
と小さな声を上げてしまった。他に気づいた人がいるのではと、周囲を見渡してみたが、他のカップルや子ども連れの親子などは気づかなかったようだった。驚いているふうの人は私以外、誰もいなかった。
もしかしたら周囲の彼らも目撃したけれど、ただ入りたい場所に入っただけだし、たいした問題とは思わなかったのかもしれない。真っ昼間から風俗店やホテル? と私は驚いたけれど、店が開いているのなら、行く人はいるだろう。こういうことに関しても、若い人はこそこそしていないのだなあと、その大らかさに感心したりもした。がっくりきたのは、風俗店に入っていった男性と同じく、ホテルの店名、男女それぞれの顔、ヘアスタイル、服装をいまだにはっきりと覚えていることだ。彼らを一瞬しか見ていないのにだ。私は人の顔を覚えられるのか、それとも覚えられないのか。自分でも微妙にわからない年頃になってしまったのである。
本連載は今回が最終回です。ご愛読いただきありがとうございました。連載をまとめた書籍を来年5月に発売する予定です。どうぞお楽しみに。
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