よみタイ

スマホ記事とおばちゃんレッテル

27年ぶりの引っ越しにともなう不要品整理。溜まりに溜まったものを処分し厳選するなかで、残したもの、そばに置いておきたいものとは。そして、来るべき七十代へ向けて、すること、しないこととは。
愛猫を見送り、ひとり暮らしとなった群ようこさんの、ささやかながらも豊かな日常時間をめぐるエッセイです。

版画/岩渕俊彦

第5回 スマホ記事とおばちゃんレッテル

版画:岩渕俊彦
版画:岩渕俊彦

 今はそのニュースアプリを削除してしまったので、目にすることはなくなったのだが、スマホを買ってすぐ、ニュースを知るのも必要だろうと、しばらくの間、そのアプリを使っていた。私はニュースのみが随時流されているのではと想像していたのだけれど、ニュースだけではなく、様々な雑誌やサイトからの、ニュースとはほとんど関係のない記事の抜粋のほうが多かった。カテゴリーに分けられていれば、そこを見なければいいのだが、知りたいニュースの合間、合間にそれらが差し込まれているので、つい見てしまっていた。
 それを眺めていると、「こういうヘアスタイルはおばさん」「こういうコーディネートはおばさん」「こういう態度はおばさん」などなど、おばさんにならない「知恵」が盛りだくさんなのだった。明らかに四十代以降の女性をターゲットにしたものばかりで、他には今、家を売ったらいくらになるか、などといった、シニア層を狙ったものもあった。このスマホを所有している私の性別、年齢などのデータを把握していて、その人の心に刺さりそうなものが、ずらずらと流れてくるのだった。
(だからスマホはうさんくさい)
 と画面を眺めながらため息をつくしかなかった。
 おばさんにならないために、というテーマでは、これまでは必ず、カラーリングをせずに、白髪を放置している女性がやりだまに上がったものだが、最近のグレイヘアブームで、その手の話はほとんど出てこなくなった。この手の記事のそういうところもいやだ。白髪は絶対に染めたいという人も必ずいるわけで、そういう人たちの意見も尊重したい。そちら側につくのであれば、カラーリングをしないのはだめだといい続ければいいのに、それをしない。世の中の様子をうかがいながら、いつもどっちに動いたら得かと考えている。これといったポリシーが送り手側にないのがいやなのだ。女性の年齢なんて関係がない、何歳になっても自分らしく生きている人が素敵なのだ、などといっているくせに、一方ではこういう記事がまんえんしている。外見の問題だけではなく、女性を取り巻く環境のダブルスタンダードはひどいものなのだ。

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『散歩するネコ れんげ荘物語』『今日はいい天気ですね。れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『よれよれ肉体百科』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『これで暮らす』『小福ときどき災難』『今日は、これをしました』『スマホになじんでおりません』『たりる生活』『老いとお金』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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