よみタイ

味噌、塩、手軽な食材あれこれ【群ようこ『今日も愛でたい』 第5回】

エッセイ『かえる生活』『かるい生活』『しない。』『これで暮らす』などで描かれているように、断捨離を経て、「手放す」ことを意識して生活を送る群ようこさん。
その一方、着物、和装小物、アクセサリー、はがき、封筒、便箋など、手放さずに愛用しているものたちも。
新連載のエッセイでは、モノをできるだけ増やさないという鉄則の中で、厳選して身の回りに置いている愛用品についてのエピソードを綴っていただきます。

前回は、日々の生活を彩る花と器について書いていただきました。今回のテーマは日々の自炊で活躍している愛用の調味料や、食材です。

イラスト/ヨツモトユキ

記事が続きます

今日も愛でたい 第5回 味噌、塩、手軽な食材あれこれ 

イラスト/ヨツモトユキ
イラスト/ヨツモトユキ

 猛暑や日々の気温差などで、食欲がなくなっているという人の話をよく聞く。その人たちはふだんは自炊をしているのだけれど、住まいの台所の位置の問題で、調理をしているとものすごく暑い。だから台所に立ちたくなくて、つい惣菜そうざいを買ってきて済ませるのだけれど、だんだん食欲がなくなってきたという。そのうち動きたくもなくなってきて、涼しい部屋のなかで、ただぼーっとしているだけというのだ。
 私も前の住まいのときは、夏場の自炊には苦労した。リビング脇の台所にはドアがついていて、孤立した一部屋になっていた。そこには窓がなく、ドアは随時開けっぱなしにしていたが、夏に調理をしていると熱気が中にこもってものすごい暑さになった。そうなると台所を出て、リビングルームに避難して少し涼み、頃合いを見計らってまた台所に戻って、調理をするという繰り返しだった。ずっと台所に立ち続けることはとてもじゃないけれどできなかった。

 しかし今の住まいは、腰壁があるアイランドキッチンになっていて、リビングのエアコンをつけると部屋の隅々まで冷気がいき届くので、コンロからの熱気はあるけれど、調理をしていても辛いということはない。毎日、相変わらず自炊をしていることを漢方の先生に話すと、
「自分で作って食べて、本当に偉い」
 と褒められた。褒められたといっても、たいしたものは作っておらず、暑いなか、たびたび買い物に行くのも面倒くさいので、ショルダーバッグと手提げマイバッグを持って食材の買い出しに行く。そのなかからあれこれ組み合わせて、簡単な食事を作っているだけである。気候が不安定でも体調不良になることもなく、元気に過ごせているのは、それなりに食べているせいかなあと思う。

 あれこれ献立を考えるのも面倒くさいので、献立に関してはパターン化している。朝は少なめの御飯と味噌汁、昼は御飯、野菜と卵と肉、夜は野菜と魚介に豆腐といった具合で、御飯を食べるのは朝と昼だけだ。土鍋で炊いた御飯が主だが、お赤飯も好きなので、おこわ米八の「冷凍一口お赤飯」を常備している。これは三個が一パックになっていて、一個が四十グラム。それが五パックまとめて売られているものだ。一個の場合、レンジで一分解凍したら食べられるので、小腹がすいたときや、お赤飯が食べたくなったときに、気軽に食べている。 味噌汁は具だくさんで、汁物というよりも、汁が多めの煮物といったほうがいいかもしれない。必ず入れるのは、乾燥きくらげ、極小にカットされた高野豆腐、切り干し大根たっぷり、わかめ、油揚げ。山形県産食品の「山形味噌汁の友」も使う。それと冷蔵庫にある季節の野菜を適当に入れ、夏はモロヘイヤをたくさん入れる。野菜はその時季に応じて旬のものを使い、出汁だしは面倒くさいので取らない。具材を入れてただ煮るだけなのだ。

 味噌はこのところ銘柄と種類が決まっていて、信州山万味噌の白系「蔵出し手詰め 糀みそ 白粒」、赤系の「蔵出し手詰め 発芽玄米味噌」を常備して、気分と季節によって、適当に混ぜて使っている。メーカーのサイトで確認したら、同じものの扱いはなかった。近所のスーパーマーケットで購入したのだが、パッケージを変えた小売店向けの商品なのかもしれない。冬はそれに、まるや八丁味噌の「有機八丁味噌」を加えることもある。味噌の量は目分量で大さじ三分の一から半分くらいの量をお椀の中に入れておく。そこに煮上がった汁を注ぐだけの手抜きなのだ。

 同じようなものでも、多少食材が変われば飽きずに何日も食べられる。しかしさすがに、たまにはパンも食べたくなって、久しぶりに近所のパン店に行ってみた。トングとトレーを手に、並んでいるパンを見ているとちょっとうれしくなってきた。どれにしようかと迷ったあげく、人気ナンバーワンと書いてあったレーズンが入ったパンと、カレーパンを買ってきた。
 それだけでは栄養上よろしくないので、いただきものの百パーセントトマトジュースと、温野菜のサラダを作って食べた。レーズンのパンは甘そうだったので、後で食べることにして、まずカレーパンを食べたら、すでにカレーの中に福神漬けが入っていて驚いた。親切と思う人と、そうでない人がいるかもしれないが、私はそんなにきっちりと、こうでなくてはならないとは考えないので、
「あら、入ってる」
 と思っただけである。レーズンのほうは予想通りの味で、おいしかった。しかしどちらも甘さが残るので、やっぱり食事というよりも、おやつに近い。ただ癖になるとこれから逃れられなくなるような気がした。
 たまに他のものを食べても、結局は地味で手抜きの自炊に戻ってしまう。もともと料理が好きではなく、バリエーションがないので、たまには違うものを作ってみたいのだけれど、つい同じものになってしまう。

記事が続きます

1 2

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Facebookアカウント
  • よみタイX公式アカウント

群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『捨てたい人捨てたくない人』、エッセイに『還暦着物日記』『スマホになじんでおりません』『老いてお茶を習う』『六十路通過道中』『ちゃぶ台ぐるぐる』『かえる生活』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』』など著書多数。

週間ランキング 今読まれているホットな記事