2026.6.10
月光荘の鉛筆 【群ようこ『今日も愛でたい』 第2回】
その一方、着物、和装小物、アクセサリー、はがき、封筒、便箋など、手放さずに愛用しているものたちも。
新連載のエッセイでは、モノをできるだけ増やさないという鉄則の中で、厳選して身の回りに置いている愛用品についてのエピソードを綴っていただきます。
連載第1回目は、様々な柄の展開が楽しいあのハンカチについて綴っていただきました。
連載第2回は、鉛筆をめぐるお話。愛用中の鉛筆はプロのイラストレーターも御用達の、銀座の老舗画材店の名品です。
イラスト/ヨツモトユキ
記事が続きます
今日も愛でたい 第2回 月光荘の鉛筆

先日、晩御飯を食べ終わってテレビをつけたら、クイズ番組で文房具についてのアンケート結果が問題になっていた。文房具好きなので見ていたら、使わなくなった文房具は何かというアンケートだった。回答が九つあり、解答者が予想して、一位から九位を当てていくのだけれど、そのアンケートで一位だったのが鉛筆だった。私は鉛筆が大好きなので、
「ええっ」
と驚きながら続きを見ていると、定規、コンパス、分度器などが入ってきたのは、そうだろうなと納得した。
(鉛筆が一位ということは、もしかしたらその相棒の消しゴムも入っているのでは)
と思っていたら、やっぱり入っていた。その他、万年筆も入っていて、文房具好きの私としては、なんだか寂しいアンケート結果になっていた。
消しゴムが使われなくなったのは、消せるボールペンが出てきたことにより、文字を簡単に消せるようになったのが理由だという。鉛筆は学校以外では、すでに一般的な筆記用具ではなくなっているということのようだ。私が小学校に入学したときは、軸が円形のかきかたえんぴつを使っていた。芯がちびてくるので、それを削るのはボン・ナイフだった。なかには家にあった肥後守を持ってくる子もいた。今から思えば小学校の低学年でも、刃物を持つことは許されていたらしい。みんなそれでナイフでの芯の削り方を覚えた。指を怪我する子は私が覚えている限りはいなかった。
小学校のとき、ぐるぐるとハンドルを回す手動式の鉛筆削り器がほとんどだったが、電動式の鉛筆削り器が出てきた。それを持っていたのは、クラスでいちばんお金持ちの工務店の娘、一人だけだった。彼女は意地悪で性格が悪く、みんなに嫌われていたが、いつも新しいものを親に買ってもらえるので、それを見たさに、五、六人で見に行っていた。すると子ども部屋のカーペットの上に電動鉛筆削り器が鎮座していた。私たちはそれを取り囲んで円く座った。すると彼女は一本の鉛筆を手に取って上に挙げ、
「見ててごらん」
といって、削り器の穴に突っ込んだ。鉛筆を差し込んだとたん、がーっと大きな音がして、削っているのがわかる。鉛筆を穴から引き出すと、みんなが憧れる、先がぴんぴんに尖った鉛筆ができあがるのだ。一同が感嘆の声を上げると、彼女は自慢げに、
「一回ずつだったら、やらせてあげる」
といった。そういわれてかわりばんこに削らせてもらったが、鉛筆を持った手には相当な振動があった。そしてどれくらい削れたかを、いちいち抜いて確認しなければならず、それを何度も繰り返すと、彼女に露骨に馬鹿にされた。
「こうやるのよ」
と彼女が鉛筆を差し込み、しばらくして抜くと、先の尖った鉛筆が姿を現す。みんなが歓声を上げると、彼女は誇らしげに笑っていた。私が彼女の家に遊びに行ったのはその一度だけだったが、ナイフで削ったのとは違う、先が鋭く尖った鉛筆の芯はとても魅力的だった。
家に帰って、電動鉛筆削り器の話をすると、ふだんは仲の悪い両親が口を揃えて、
「そんなものはいらない」
ときっぱりといった。特に父親は絵を描いていたので、
「鉛筆の芯はナイフで削るので十分。それでいろいろな味のある線が描ける」
といった。母親は金銭的な問題でいらないといったのだと思う。特に欲しくてねだったわけではないので、私も、ああそうかと素直に引き下がったのだが、手で削ったときに何とかあの先の尖りを再現できないかと、勉強もせずに机の上でずーっとナイフで鉛筆を削り続けたこともあった。
シャープペンシルは小学校では禁止されていて、中学生になってから学校に持っていける許可が出たような覚えがあるが、はじめてシャープペンシルを使ったときは、これで芯を削らなくてもよいと感激したけれど、やはり私は鉛筆が好きだったので、シャープペンシル一本、鉛筆三本を筆箱に入れていた。シャープペンシルが許可になったのと同時に、ボン・ナイフの持ち込みは禁止になった。中学校で、いろいろなトラブルが出はじめた頃だったのかもしれない。
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