2026.9.8
ギリギリを攻めていて、さらっと読めるのに深掘りできる——占い師兼バーテンダーが読む『昼間のスターゲイザー』【鏡リュウジ×千田歌秋対談・前編】
この発売を記念し、6月7日に東京・神保町の書店「書泉グランデ」で、鏡リュウジさん、東京・麻布十番にある占いカフェ&バー「燦伍」のオーナー占い師兼バーテンダーである千田歌秋さんのお二人によるトークイベントが開催されました。3刷を記念して、その模様を2回に分けて公開します。
前編では、千田さんが感じた『昼間のスターゲイザー』の魅力を存分に語ってくれました。
撮影/藤澤由加
構成/小沼理
心理学において悪口は肯定されるべきである

ギリギリのラインを攻めた本
鏡 『昼間のスターゲイザー』を出す前、かなりドキドキしていたんです。さらっと読めるので、一見するととても安全な本に見えるかもしれない。でも、心理学サイドの人に向けても、占い界隈に向けても、かなり危ない橋を渡るようなことを実はしています。
千田 ギリギリのラインを攻めた本ですよね。 占い師同士であれば踏み込めるけど、そうじゃない人には言えないというラインがあると思うんです。
私は麻布十番にある「燦伍」という占いカフェ&バーで、オーナー占い師兼バーテンダーをしています。占いの館であれば基本的に占いが好きな人しか来ませんが、バーだとうっかり迷い込む人がいるんですね。
そうすると、占いを信じていない人にいろいろ突っ込まれることも多いんです。当たり前のようにホロスコープの話をして、「いや、天動説じゃないですか(笑)」と言われたり。実際、今の合理的な思考だと否定されていることを、占いでは常識みたいに扱っていることがたくさんあります。
そういうツッコミが起きないラインを絶妙に守りながら、ギリギリを攻める時は注意深く説明しながらお話しされていると感じました。
鏡 そう言ってもらえるとうれしいです。
今、千田さんはバーにはいろんなお客様がいらっしゃって、占いの非科学的な側面について突っ込まれることが多いとおっしゃっていました。これは占いが持っている力のある種の表れだと思います。
占いって本当に周縁化されているんですよね。要するに、社会的にはマイナーで他愛のないものとして扱われながら、人には強い印象を与えているんですね。ユング心理学的に言うなら、「占いには元型的な、アーキタイパルな力がある」。
「占いやってます」って言うと、たまにこう言われませんか? 「すいませんね、私、特に信じてないんですよ」って。
千田 よく言われます。
鏡 こんな仕事って、他にあまりないと思うんです。例えば、「私、ミュージシャンです」と言って、「ごめんなさい、私、音楽聞かないんで。でも、いいと思いますけどね」と返す人はあまりいないじゃないですか。わざわざ言うってことは、それだけ防衛機制が働いている気がします。占い的な領域に関わる自分が嫌だ、あるいは怖いという心理的な表れなんじゃないでしょうか。


見事なデュオ演奏を聴いたような読後感
鏡 この本にあるように、心理学と占いには似たところがあります。「混ぜるな危険、でも親戚!?」。ルーツが同じ故に近親憎悪が生じるし、商売敵でもあります。
僕は心理学に関心があるとよく言っていますが、自分のバックグラウンドにあるのはユング心理学という、現代の心理学の中では周縁的なもの。しかもユングは非常にレンジが広い人ですが、僕はその中でもっとも“怪しい”と言われている部分に関心がありました。
東畑さんも臨床心理がご専門ですから当然ユングにもお詳しい。それは京都大学で学ばれたあと、沖縄でニューエイジヒーラーたちに治療を受けながら取材して書いた『野の医者は笑う』にも表れています。
千田 :『野の医者は笑う』は伝統的なユタではなく、民間療法のヒーラーが取材対象なんですよね。東畑さんは自らが学んだ臨床心理学と民間療法を比較しながら考えていく。そこには、その土地の文化を相対化しながら治療について考えていく医療人類学の視点があります。
人類学は植民地主義の時代に生まれているわけですね。植民地化をいかにうまく進めるか、それを目的として異文化を調査するところから出発しているので、それに対しての強い反省がある。ただ、どうしても論文やエスノグラフィを書くときには自分視点、近代からの話法になりかねないという葛藤があるんじゃないでしょうか。
東畑さんが人類学的・心理学的な立場で、沖縄のヒーラーの話を聞いて書くことも、構図としてはそうなりかねない。だけど東畑さんはヒーラーとのやりとりの中で起きたことを、笑いを交えたり、直接的には関係がないその人の人柄にも触れたりしながら書いていきますよね。そうすることで、構図をずらしている。周縁からなんとなく攻めていって、直に行かないことにすごく長けていると思いました。
東畑さんのそうした周縁的とされるものへの向き合い方やテクニックを知っていたので、『昼間のスターゲイザー』も安心して読めました。
鏡 『野の医者は笑う』は文庫版の「あとがき」で、東畑さんが当時を振り返って自身の変化について書いた文章が素晴らしいんです。ぜひ読んでみてください。別の本の宣伝になっちゃった(笑)。
千田 では『昼間のスターゲイザー』の宣伝を(笑)。改めて、とても良い対談本でした。誰かと対談をする時って、私は相手と一緒に演奏しているのをイメージします。
相手の話を聞きながら自分の話をする方法には、二通りのスタイルがあると思います。音楽でたとえるなら、誰かが歌っているのに伴奏をつけるようなスタイルと、自分がソロを弾いて相手に伴奏してもらうようなスタイルです。
東畑さんと鏡さんは、この二通りのどちらも超一流。だからお二人の対談は、まず東畑さんがソロで鏡さんが伴奏、今度は入れ替わって鏡さんソロで東畑さんが伴奏で……というのが完璧に続いていくんです。全四章の本を読み終えた時、見事なデュオ演奏を聴いたあとのような感覚になりました。
鏡 その感想、さっき打ち合わせのときに言っていただいて本当に嬉しかったです。光栄至極。
千田 対談本を作るなら、どちらかを主役にしてしまった方がやりやすかったと思うんです。占いに関する本にして、東畑さんが鏡さんを心理学的な側面からインタビューしました、といった構成のほうが簡単だったと思います。でも、この本ではそれをしていない。それが最初に驚いたところでした。それから完成度の高さに驚き、さらにものすごく読みやすいことにまた驚く。3回驚かされた本でした。
鏡 僕もこれまでたくさん対談させてもらいましたが、こんなにスムーズにいったものはないですね。稀有な体験でした。
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