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作家ものやイッタラ、アルテックの器と花と【群ようこ『今日も愛でたい』 第4回】

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 そんな私が、毎日、花を飾るようになったのは、一緒に暮らしていた、しいという名前のネコが二〇二〇年に亡くなってからである。享年二十二だったので、ご長寿の部類で涙も出なかったし、悲しいというよりも、
「よく生きてくれた!」
 と褒める気持ちしか湧いてこなかった。しかし一緒に暮らした年月を考えると、ああしてあげればよかった、こうしてあげればもっと長生きできたのではという思いはあった。
 そこで亡くなった後ではあるが、毎日、花を絶やさないようにして、別の世界に旅立ったネコが、毎日楽しく暮らせるように、祈ろうと考えた。それから今までずーっと花を買う習慣は続いている。ネコがいるときは、ネコの体によくない植物が多いこともあり、いただいた花以外は活けることがなかった。

 しかしこれから毎日、花を活けるとなると、ちゃんとした花瓶が欲しくなった。家には一輪挿し、キッチンツールスタンド、私が実家を建てたときに、某出版社がお祝いにくださった、直径十五センチ、高さ二十七センチの美しい細工が施してあるクリスタルの花瓶の三つがあった。ほどほどの本数の花を活けたいので、高さ十六センチから二十センチの間のものを、インターネットで探しはじめたら、様々な色、形のものがあるのにびっくりした。

 最初はどんな花でも合う、シンプルなガラスのものを購入した。しかし透明だと花瓶内の水の濁りが目立つこともあり、次は青、緑の色ガラスのものにしてみた。ところがよほど花の色を選ばないと、花瓶とのコントラストで、双方の色のよいところを消してしまう。映りのいい花の色ばかりを選ぶのもつまらないし、緑色だったらどんな花でも合うと考えたのに、意外に面白みがなかった。次に別の色をとピンク色を買ってみたら、これも花の色と相まって、いまひとつだった。花を活ける器なのだが、形、色、材質など、それぞれに受ける印象が違って、花器は奥が深いものだった。
 
 亡くなった母親は、特養老人ホームに入所するまで、車で送迎してくださる優しいお仲間がいて、最後の最後まで活け花のお稽古を続けていた。花瓶が何十個もあり、そのときは、なぜそんなに数があるのかと不思議だったのだが、自分が花を飾るようになって、その気持ちがわかった。これに合わない、あれにも合わないと考えているうちに、数が増えていったのだろう。
 しかし私は活け花のお稽古をしているわけではないので、ほどほどのところでやめなくてはならない。ひとまず私の感覚には合わないと感じた花器はバザー品として提供した。 
 活け方もただ花瓶に投げ入れるだけで、こんなふうでいいのかなとは思っていた。そんなときイッタラの「アルヴァ・アアルト コレクション ベース」を思い出した。
 側面がうねっていて、変わった形状の花瓶なのは知っていたが、これだとただ投げ入れただけでも、花の方向があちらこちらに向いて、それなりの形になってくれそうだった。試しに高さ十二センチのものを買ったら、とても具合がよかったので、次に二十二センチ、花のくきをだんだん短くカットしたときに活けるための九・五センチのものも買った。私のような不精者にはありがたい花瓶になった。

 花を活けていていちばん困るのは、この花はもうおしまいなのか、それともまだ大丈夫なのかという見極めだった。どうしたものかと考えていたところ、こういうところで一輪挿しを使えばよいと気がついたのである。昔に買ったクリスタルの一輪挿しの底をよくよく見たら、フランスのサンルイ社製のものだった。クリスタルでは有名なメーカーらしい。そして特に買うつもりもなく、インターネットで一輪挿しをあれこれ眺めていたら、
「かわいい!」
 と目を引かれたものがあった。正野蕗子作のレリーフ文様の一輪挿しで、これだけ置いていてもオブジェとしてかわいい。高さ十一センチのSサイズを購入した。
 くたっとしているけれど、役目を終えさせるのはしのびない花があるときは、それに挿していると、また新たに生き返るような気がする。春に茶道の師匠から、お庭の乙女椿を分けていただいて、それを活けたときは、あまりの愛らしさにテーブルの上からネコの写真の前に移動させて、
「ほーら、しいちゃん、かわいい乙女椿。しいちゃんにぴったりね」
 といいながらでていた。

 花瓶はいろいろと溜まってきたものの、ガラス製が多いので、陶器で他にも何かないかと探していたら、日本の埴輪はにわに通じるような、フィンランドの花瓶を見つけた。アルテック社の「シークレッツ オブ フィンランド ベース イースターウィッチ」で、復活祭のときの魔女の姿を模したもので、上げている右手に花を突っ込むようになっている。形としてはマトリョーシカ風で、これは面白いと見ていたら、それには別売りだが、基本的にはセットになっている、魔女の飼いイヌである「イースタードッグ ベース」もあった。
 これもまた形はマトリョーシカなのだが、ちゃんと顔がイヌになっている。こちらも上げた右手に花がさせる。これはペアでなくてはいけないと、早速購入して冬場の玄関にペアで飾っている。しかし花瓶自体がクセ強で、挿す花を選ぶのが難しく、こちらもオブジェとして飾ることが多い。

 きっかけはネコの旅立ちだったが、うちには毎日花がある。ネコを飼わなければそんなことはなかっただろう。夏場は花を維持するのも大変だが、部屋にあるのとないのとでは大違いだった。ガーベラを活けたら、花びらがそっくり返ったのを見て、ぎょっとしたりもするけれど、花を買ってどの花瓶に活けようかと考えるのが、前期高齢者になってからの、楽しみのひとつになったのである。

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次回は9月9日(水)公開予定です。

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『捨てたい人捨てたくない人』、エッセイに『還暦着物日記』『スマホになじんでおりません』『老いてお茶を習う』『六十路通過道中』『ちゃぶ台ぐるぐる』『かえる生活』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』』など著書多数。

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