よみタイ

こんにゃくスポンジが教えてくれた、美しく生きるために必要ないくつかのこと

 さて、こんにゃくスポンジを使い始めてから約二週間が経過した。ケアらしいケアを今まで全くしてこなかった私の肌には、その効果はてきめん。全身を覆っていたカサカサ肌は、まるでナタ・デ・ココのようなもっちりプルン肌へと生まれ変わった。長年悩まされてきたひじとひざの黒ずみは、真っ白とまではいかないものの、チョコクリーム色ぐらいにはなってきた。
 人間四十年も生きてくると、どうしようもなく澱んだ感情や、思い出したくもない苦い記憶、そんなどす黒いものが心の中にうごうごと渦巻き始める。それらは簡単に解消できるものではない。ならば、自分の真っ黒な心を包む体だけでも、心の入れ物だけでも綺麗でいたい。そう願うのはいけないことだろうか。内面を磨くことで変われる人もいれば、外見を整えることでしか変われない人だっているのだ。変われない自分を安心させるためだけに、安易な精神論に飛びつくのはもうやめにしよう。

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 ジャブジャブジャブ……
 ある日の夜、いつものようにこんにゃくスポンジを水洗いしているとき、ふと思春期の記憶が頭をよぎる。そうだ、あの頃も私はこうやってこんにゃくを洗っていた。中学生のとき、こんにゃくを使って大人のおもちゃを作ることが学校で流行ったことがある。鍋で人肌ぐらいに温めたこんにゃくに包丁で切り目を入れてその中に……、そのあとはご想像にお任せする。

「ごめんよ、本当にごめんよ」

 己の欲望のままに下品な使い方をしてしまった罪滅ぼしのつもりで、せめて綺麗に洗ってから捨ててあげようと、何度も何度もこんにゃくを水洗いをしていたあの頃。
 若いときは性欲の捌け口として、大人になった今は美しくなるための美容器具として、私はこんにゃくのお世話になりっぱなしである。なんだ。私の傍にはずっとお前が居てくれたんだな。

「こんにゃくさん、いつもありがとう」

 人生っていったいなんなんだ。こんにゃくっていったいなんなんだ。美しさっていったいなんなんだ。その答えを探し求め、私は今日もプルプルお肌で生きていく。

(イラスト/山田参助)
(イラスト/山田参助)

当連載は毎月第2、第4日曜更新です。次回は7月23日(日)配信予定です。お楽しみに!

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爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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