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【全候補徹底取材】街頭演説をする候補は1人。投票率34.67%の広島県知事選挙から学べる、いくつかの大切なこと

無症状であっても希望者が無料でPCR検査を受けられるPCRセンターを県内複数ヶ所に設置するなど、湯崎知事のコロナ対策は他候補者からも一定の評価を得ていた。(撮影/畠山理仁)
無症状であっても希望者が無料でPCR検査を受けられるPCRセンターを県内複数ヶ所に設置するなど、湯崎知事のコロナ対策は他候補者からも一定の評価を得ていた。(撮影/畠山理仁)

現職候補が当選するたびに「多選」について聞く中国新聞

今回の広島県知事選にあたり、メディアが主な争点として挙げたのは「3期12年にわたる湯崎英彦県政への評価」だった。湯崎氏は初めて知事選に立候補した2009年、「多選自粛」を掲げて当選していたからだ。初当選直後に中国新聞からインタビューを受けた際、湯崎氏は次のように答えていた。

「同じ人が4期16年トップをやるのは異常。みんなそこしか向かなくなる。その意味で3期12年も長い。4年である程度の実績を示し、県民の支持が得られることを前提に、8年が基本だと思う」(中国新聞/2009年11月10日掲載)

中国新聞が素晴らしいのは、湯崎氏が当選するたびに「多選」について聞くところだ。2期目の当選を果たした2013年、3期目の当選を果たした2017年にも聞いている。

「『3期は駄目』とは言っていない。『3期は微妙だが、4期は長すぎる』と言ったと思う」(中国新聞・2013年11月12日掲載)

「4期16年は、生まれた子どもが高校生になるぐらいの長さ。長いのは間違いない。それでもやらなければならないことがあるかもしれないし、現時点では何とも言えない」(中国新聞・2017年11月14日掲載)

中国新聞は期待を裏切らない。4期目の当選を果たした今回もちゃんと聞いていた。詳しい内容は、ぜひ中国新聞を読んで確かめてみてほしい。今回は先回りして「5期目を目指す考えがあるかどうか」も聞いていた。

今回の選挙に立候補した3人のうち、中村、湯崎両候補が第一に挙げた課題は「新型コロナ感染症対策」で共通していた。もう一人の候補である樽谷昌年候補は、湯崎知事のコロナ対策について一定の評価をしていた。

広島県は湯崎知事のもと、全県での外出半減や出勤者の削減を呼びかけてきた。飲食店への時短要請も早くから行ってきた。また、県内に複数ヶ所のPCRセンターを設置し、無症状であっても希望者が無料でPCR検査を受けられる体制を作ってきた。

今年夏のピーク時も、広島県では入院待機者が出ていない。投開票日となった11月14日には、今年2月27日以来、8カ月半ぶりに広島県内で新規感染者が確認されなかった。人口100万人あたりの死者数は、全国平均の半分以下である72人だ(2021年11月15日現在)。

2020年4月には、コロナ対策の財源について「県職員から任意で集めた国の一律給付金を活用することを検討する」と発言して批判を受けたが、すぐに撤回。大きな失点とはなっていない。

私が現地で話を聞いた限りでは、湯崎知事のコロナ対策への評価はそれほど悪くなかった。

今回、湯崎候補はどの政党にも推薦要請を出していない。しかし、総決起集会や開票報告会に出席した顔ぶれをみると、中本隆志・広島県議会議長、冨永健三・自由民主党広島県議会議員連盟会長、中原好治・広島県議会民主県政会会長、栗原俊二・公明党広島県議会議員団団長が出席していた。実質的に県議会のメンバーのほとんどが湯崎氏を支えていたことになる。それだけでなく、久光博智・連合広島会長も出席していた。政党の推薦はなかったが、200を超える団体が湯崎氏に推薦を出していた。そればかりか、今年4月に行われた参議院広島再選挙で戦って敗れた西田英範氏、勝利した宮口治子氏が湯崎事務所に駆けつけていた。

その意味では、有権者が大きな争点を見いだせず、あまり関心を持てなかった選挙だといえる。

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畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)などの著書がある。
公式ツイッターは@hatakezo

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