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畠山理仁「アラフォーから楽しむ選挙漫遊記」
20年以上、国内外の選挙現場を取材し続けている開高健ノンフィクション賞作家・畠山理仁さんによる“楽しくてタメになる”選挙エッセイ。

前回の第48回は全国各地を精力的に取材してきた畠山さんによる衆議院選挙結果の総括でした。

そして今回は再び選挙漫遊へ。11/14(日)投開票の広島県知事選挙、衆院選疲れが有権者側からも少し見られる中、3人の候補者と投開票を現地取材して感じたこととは? 

【全候補徹底取材】街頭演説をする候補は1人。投票率34.67%の広島県知事選挙から学べる、いくつかの大切なこと

衆議院選挙から続く広島県知事選挙には3人が立候補した。(撮影/畠山理仁)
衆議院選挙から続く広島県知事選挙には3人が立候補した。(撮影/畠山理仁)

現職候補が一切街中での選挙運動を行なわなかった広島県知事選挙

緊急事態宣言が解除された広島の街中に人はたくさんいた。夜8時を過ぎても多くの飲食店は開いていた。しかし、県知事選の現職候補は、一切街中での選挙運動を行なわなかった。それが今回行なわれた広島県知事選挙の特徴だ。

知事選が告示されたのは、衆議院議員総選挙まっただ中の10月28日(木)。投開票日は総選挙の2週間後にあたる11月14日(日)。選挙期間が一部重なってはいたものの、投票日は異なる。2017年に行なわれた前回知事選の投票率は31.09%と低かったため、今回の投票率がどうなるかは私にとって大きな関心事だった。

この選挙には3人が立候補した(届出順)。

中村孝江(なかむら・たかえ)候補 35歳 日本共産党 新人 政党職員
樽谷昌年(たるたに・まさとし)候補 70歳 無所属 新人 金属リサイクル業
湯崎英彦(ゆざき・ひでひこ)候補 56歳 無所属 現職 広島県知事

選挙戦最終日となる11月13日(土)。私が朝一番に現地をたずねると、中村孝江候補(日本共産党)の選挙を手伝っていた男性が私に言った。

「街で人に会うと『あれ? 選挙って、こないだ終わったんじゃないの?』と言われてしまうんですよね。その度に、『いや、知事選はまさに今やっています』と説明するんですが、みなさん『選挙疲れ』しているというか、あまり関心が高まっていない気はします」

選挙戦の最終盤ということもあり、男性も少し疲れているように見えた。そこで私が「ずっと中村さんの知事選を手伝っているんですか?」と聞くと、男性の口から思いがけない言葉が返ってきた。

「実は私自身、この前の総選挙に立候補していたんですよ」

なんと! 
私が話をしていたのは、先の総選挙に広島1区から立候補した大西理(おおにし・おさむ)氏(55歳)だった。大西氏は2013年の県知事選で湯崎知事と直接対決した人物で、2012年、2014年、2017年の総選挙にも広島1区から立候補していた。大西氏は10月31日に自身の選挙戦を終え、そのまま中村候補の選挙戦を手伝っているのだという。まさかの連戦だ。

「(中村候補は)若い候補なので、若い人たちからの評判はいいですね。ただ、投票日が総選挙とは別なので、投票率がどうなるかは読めないところです」(大西氏)

私はこの日の朝、中村候補が広島駅の南大橋で行った街頭演説を見ていた。橋の上には8人ほどの支援者がパネルや横断幕を持って並んでいた。主に駅に向かう人、駅から街中へと向かう人たちに演説をしていたが、足を止める人は多くない。それでも中村候補は力強く訴えていた。

「ジェンダー平等を実現し、カラフルな広島県にしていきましょう。それには政治や選挙にあきらめを感じている、あなたの力がどうしても必要です!」

中村候補は今回が初めての選挙だ。しかし、演説は堂々としている。演説を終えたところで私が声をかけると、気さくに取材に応じてくれた。

「構図のわかりやすさから、一定の女性、若い世代、無党派層の反応の良さは感じます。ただ、県知事選挙って、もとから投票率も高くない。関心の持ちにくさが課題だなって思いながら、街頭で訴えをさせていただいています」

今回、現職の湯崎候補は新型コロナ対策を理由に街中での選挙活動を一切していなかった。選挙カーも走らせていない。県内の全23市町ごとにオンライン集会を開くのが湯崎候補の選挙戦だった。これを街頭に立つ中村候補はどう見ていたのだろうか。

「私の政策を自ら出向いて、有権者のみなさん、主権者のみなさんに訴えるのが、政治家、候補者としての務めだと思います。(街頭演説を)やるのは当たり前だと思いますし、街に出れば『あなた期待しているんだ』とか、『女性の政治家じゃないとだめだ』という反応も直接寄せてくださる。支持をしてくださる方も直接伝えられるっていう相互の関係性があるので、街頭に出てよかったと思います。選挙があるぞってこともお知らせできます」

私は中村候補が広島市中心部で行った最終演説も見た。このときの聴衆は約40人。知事選の最終演説としては寂しい。それでも中村候補は立候補を後悔していないと言った。

「出てよかったと思うのは、今の県政がこういう県政なんだっていうのを広く県民のみなさんに情報提供ができること。問題提起ができるのはよかったなと思っています」

中村陣営が配る共産党のビラには、こんな文言が書かれていた。

「知ってびっくり! 広島県政 福祉施策は全国最低クラス」

そこには「子どもの医療費助成は17年間「就学前」に据え置き」「保健所を20か所から10か所に削減」「公的病院の削減・統廃合を推進」など、中村氏が考える県政の課題が並んでいた。

選挙の現場を訪れると、その地域の課題が一瞬にしてわかる。それを解決しようとするのか、それとも課題とは思わないのか。対応を決めるのは有権者の一票である。

「選挙で(街頭演説を)やるのは当たり前だと思います」と語る新人の中村孝江候補。(撮影/畠山理仁)
「選挙で(街頭演説を)やるのは当たり前だと思います」と語る新人の中村孝江候補。(撮影/畠山理仁)
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畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)などの著書がある。
公式ツイッターは@hatakezo

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