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影の主役は菅首相。コロナ禍でも平成以降の単独市長選で最高の投票率。横浜市長選挙の熱きバトルの裏側

菅首相が応援する小此木候補の演説には石破茂氏も。(撮影/畠山理仁)
菅首相が応援する小此木候補の演説には石破茂氏も。(撮影/畠山理仁)

投票率を上げた立役者の一人は菅義偉首相

 投票率を押し上げた要因の一つは、横浜市長選挙史上、最多となった8人の候補者だろう。まずはすべての候補者に敬意を表し、名前と肩書を並べてみたい(立候補届出順)。

太田正孝 元横浜市会議員
田中康夫 元長野県知事、元衆議院議員、元参議院議員
小此木おこのぎ八郎 元国家公安委員長、元衆議院議員
坪倉良和 水産仲卸会社社長
福田峰之 元内閣府副大臣、元衆議院議員
山中竹春 元横浜市立大学教授
林文子 横浜市長(3期)
松沢成文 元衆議院議員、元神奈川県知事、元参議院議員

 豪華な顔ぶれでうらやましい。魅力と可能性がある街には多様な候補者が立つ。
 
 そして私は投票率を上げた立役者をもう一人挙げたいと思う。
 それは衆議院神奈川県第2区(横浜市西区、南区、港南区)を地盤とする菅義偉首相だ。
 
 菅首相はIRを推進する立場だが、今回の市長選挙では「IR反対」の立場で立候補した小此木八郎を「全面的かつ全力で応援する」と明言した。菅首相は小此木八郎候補の父である小此木彦三郎の元秘書であり、小此木八郎候補とは50年近い付き合いの「盟友」である。
 菅首相の応援宣言は、横浜市内で配られるタウン誌『タウンニュース』の意見広告(7月29日付/企画・製作 おこのぎ八郎事務所)に掲載されたものだ。ここで菅首相自身はIRに言及していない。しかし、これを読んだ有権者の多くは菅首相がIRをあきらめるとは全く思っていなかった。簡単に言えば、菅首相は有権者から信頼されていなかった。
 このことが選挙に与えた影響は大きい。小此木候補は首相の応援を得たことで「当選したらIR賛成に回るのではないか」と強く有権者に疑われてしまったのだ。

 政治の世界では「国政選挙と地方選挙は関係がない」とよく言われる。与野党あいのりもよくある。しかし、今回の選挙は「保守分裂」と「与野党対決」が重なった。そして選挙結果を見る限り、「菅義偉政権への評価」が大きく問われた選挙になっていた。

 開票結果を見ると、菅首相の地盤である西区、南区、港南区でも、山中候補の得票が小此木候補の得票を大きく上回っていた。これはすごいことだ。野党にとっては、まさに「菅さんのおかげ」という選挙になっていた。
 今、菅義偉首相ほど世の中から怒られている人はいない。自民党支持者からも怒られている。そのことは、下落の一途をたどる内閣支持率を見ても明らかだ。
 今、一番政治に関心を持たせてくれている政治家は、菅義偉首相かもしれない。

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畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)などの著書がある。
公式ツイッターは@hatakezo

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