よみタイ

横浜市長選挙で起きたもう一つのバトル。「落選運動」を展開した郷原信郎氏にいろいろ詳しく聞いてみた。

20年以上、国内外の選挙の現場を多数取材している、開高健ノンフィクション賞作家による“楽しくてタメになる”選挙エッセイ。 前回の第44回は8月22日投開票の横浜市長選挙の詳細レポート。その後、ご存知のとおり菅首相が自民党総裁選不出馬を表明するなど、まさに大きな影響を与えそうな結果となった市長選となりました。 今回は横浜市長選挙の続報。この選挙では「落選運動」も大きな話題になりましたが、その運動を展開した弁護士・郷原信郎氏に「落選運動」について詳しく聞いてきました。

横浜の後援会事務所で取材に応じた郷原氏。右下が本文に出てくる『横浜モンダイ』だ。(撮影/畠山理仁)
横浜の後援会事務所で取材に応じた郷原氏。右下が本文に出てくる『横浜モンダイ』だ。(撮影/畠山理仁)

個人でやる限り、ビラの枚数に制限はない。

 8月22日に投開票が行われた横浜市長選挙で、大きく注目された動きがある。日本で久しぶりに行われた「落選運動」だ。
 落選運動は「特定の候補を落選させるために展開される政治活動」である。米国、韓国など海外では活発に行われており、すでに市民権を得ている。しかし、日本では、これまで何度か行われた例はあったが、一般にはあまり馴染みがない。
 いったい、「落選運動」では何ができて、何ができないのか。
 今回の横浜市長選挙で落選運動を展開した弁護士の郷原信郎(ごうはら・のぶお)氏に話を聞いた。

――郷原さんは7月7日の段階で、横浜市長選挙に立候補する意思を記者会見で表明していました。ところが8月5日には出馬の意思を撤回して「落選運動」に転じました。なぜですか。

郷原  私は今後、自治体の首長選挙において「落選運動」が必要になるときが絶対にあると思っています。今回もまさにそう。横浜市長選挙は、今後4年間の横浜市政を委ねられる人物を選ぶ選挙ですから、市民に「候補者がどういう人なのか」を理解してもらうことがものすごく重要です。人間、必ず良い面と悪い面があります。そこもちゃんと市民に情報として提供しなければいけないと考えて、落選運動をはじめました。

――郷原さんが落選運動の対象として名指ししたのは、山中竹春さんと小此木八郎さんでした。郷原さんは野党系だと思われていたのに、なぜ、山中さんを対象にしたのですか。

郷原 山中氏には、経歴詐称疑惑、パワハラ疑惑、そして、本当にコロナの専門家なのかという疑義があったからです。小此木氏を対象にしたのは、「菅支配からの脱却」を訴えたかったから。本当は私が立候補して「菅支配を打ち破る」と言いたかった。

――普通の選挙戦ではダメだったのでしょうか。

郷原 これまで大きな都市での首長選挙は、「どの政党が担ぐか」という話に終止していました。候補者にいろんな問題、いろんな疑問があるのに、政党がほとんど耳を貸さない。それは自治体の公職選挙のあり方として絶対おかしい。それに対して「ノー」と言う人がいないといけないと思ったんです。

――ご自身が立候補してもよかったのではないでしょうか。

郷原 私が立候補の意思を表明したのは、「山中氏では絶対駄目だ。それなら私が手を挙げる」という思いからでした。それでも政党側は絶対引かなかった。山中氏から疑惑に対する納得のいく説明もありませんでした。
 ただ、もし、自分が立候補することになれば、やはり自分の政策をアピールすることが中心になります。そこで「他候補にはこんな問題があります」「コロナの専門家じゃありませんよ」とはなかなか言えない。他候補の批判はマイナスに捉えられますし、そんなことばかりやっても当選するわけがないからです。そうであるならば、落選運動そのものをやっていくしかない。そう考えて8月5日に「自分は立候補しないで落選運動に切り替える」と、記者会見を開いて明らかにしたんです。

――落選運動では、『横浜モンダイ』という夕刊紙風のビラが話題になりました。

郷原 夕刊紙風にしたのは手にとって読んでもらうためです。私が山中氏の問題を指摘してきたブログの記事をそのまま配っても、大半の人がそのまま捨てるでしょうからね。やっぱり大きな見出しがあるから、「なんだろう」と思って見てくれる。それなりのプロ仕様になっているのでお金もかかりました。それを個人の資金で2万部刷りました。

――選挙運動の場合、配れるビラの枚数もきっちり決まっています。ビラに証紙が貼られていなければ配ってはいけないなどの規制もあります。

郷原 落選運動を個人でやる限り、ビラの枚数に制限はありません。ただ、選挙期間中の落選運動は、あくまでも個人の活動でなければならない。落選運動では確認団体を作れないからです。あくまでも個人としての活動。私が個人として作ったビラを、関心を持った人が個人の活動として配ったりすることはありました。

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畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』『コロナ時代の選挙漫遊記』(ともに集英社)などの著書がある。またその取材活動は『NO 選挙, NO LIFE』(前田亜紀監督)として映画化された。
公式ツイッターは@hatakezo

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