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影の主役は菅首相。コロナ禍でも平成以降の単独市長選で最高の投票率。横浜市長選挙の熱きバトルの裏側

20年以上、国内外の選挙の現場を多数取材している、開高健ノンフィクション賞作家による“楽しくてタメになる”選挙エッセイ。 前回の第43回は20年ぶりに新人同士の戦いになっていた7月18日投開票の兵庫県知事選挙の現地レポートでした。 今回は8月22日に投開票された横浜市長選挙の詳細レポート。今後の自民党総裁選、そして秋の衆議院総選挙に大きな影響を与えそうな結果となった市長選。現地取材でわかったこと、感じたこととは?

前回から11.84ポイントも上昇! 最終的な投票率は49.05%になった

 その街が抱える課題を知りたければ、選挙を見に行くのが一番の近道だ。

 2021年8月8日告示・8月22日投開票の日程で行われた横浜市長選挙は、そのことを再認識させる選挙だった。 
 選挙には多様な候補者が立候補する。どの候補者も「横浜の街や市民のため」に立候補する。だから一生懸命、街が抱える課題を分析し、問題解決するための道筋を提示している。独自の提言もある。それを有権者に堂々と問うている。
 政治をゼロから始めるのはハードルが高い。しかし、選挙という場を利用すれば、誰もがいきなり政治に詳しくなれる。横浜市にはIR(カジノを含む統合型リゾート施設)やコロナの問題だけではなく、学校給食や水道料金値上げの問題があることもわかる。「山下ふ頭を食のパークにする」「IRをやめてカーボンニュートラルの先進都市を目指す」などのアイデアにも触れられる。選挙は政治の世界に飛び込む絶好の入り口である。

 私はこの選挙でも、8人の候補者すべてを追いかけた。もちろん、できるかぎり他者との接触を避けるため、移動も取材も一人。公共交通機関は利用せず、自分が運転する車で横浜の街を走り回った。ガソリンスタンドもセルフ方式の店を選んだ。
 横浜市は約378万人が暮らす日本最大の政令指定都市だ。市内には18の区があり、ポスター掲示場は4716か所。投票所は市内に630か所設置され、選挙にかかる経費は13億円。私も検温、消毒、KF94マスク着用など、感染症対策に配慮して取材を行った。
 
 横浜は広い。道路では渋滞もあるから移動時間が読めない。一日に会える候補者の数も限られる。「1人(私)対8人(候補)」の取材では休んでいる暇がないため、どうしても食事の時間を削る必要がある。多くの場合は食事抜きだ。
 ようやく選挙取材を終えた20時過ぎ。私は横浜ならではの食事を摂ろうと思い、飲食店を探した。そして、毎回絶望した。緊急事態宣言下にある横浜では、その時間まで開いている飲食店はほとんどなかったからだ。
 楽しみにしていた中華街のワンタン麺には間に合わなかった。せめてお土産だけでも、と思っていた、シュウマイやチャーシューも買えなかった。人影はまばらで、経済活動が大きく制限されていることを痛感した。

 しかし、選挙の現場で出会った横浜市民に話を聞くと、これまで行われてきたコロナ禍での選挙とは違う答えが返ってきた。それは「いま、選挙があってよかった」という声だ。

 これまで私が取材してきた選挙では、多くの有権者から「選挙をやっている場合か」という疑問の声があった。しかし、横浜では耳にしなかった。コロナ禍が1年半以上も続いたことにより、「選挙は必ず行われる」ことが常識になっていた。むしろ横浜では、「今こそ選挙で自分たちの意思を示したい」という声が幅広い世代から聞こえてきた。
 実際、今回の横浜市長選挙では、投票率が前回の2017年に比べて11.84ポイントも上昇している。期日前投票に行った人も増え、最終的な投票率は49.05%になった
 もちろん、まだ半数以上の有権者が投票に行っていない。しかし、外出を控えがちなコロナ禍にあって、投票率が2ケタ上がったことは特筆に値する。これは平成以降、単独で行われた市長選挙ではもっとも高い数字だった。

緊急事態宣言下で日々感染者数が増加していた横浜。残念ながら中華街などでの食事を満喫することはできなかった。唯一お店で食べたそばと天丼。(撮影/畠山理仁)
緊急事態宣言下で日々感染者数が増加していた横浜。残念ながら中華街などでの食事を満喫することはできなかった。唯一お店で食べたそばと天丼。(撮影/畠山理仁)
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畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)などの著書がある。
公式ツイッターは@hatakezo

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