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畠山理仁「アラフォーから楽しむ選挙漫遊記」
20年以上、国内外の選挙の現場を多数取材している、開高健ノンフィクション賞作家による“楽しくてタメになる”選挙エッセイ。
前回の第9回では、コロナウイルス問題の渦中で行われた選挙からインターネット選挙の可能性をお伝えしました。
今回は、その熊本県知事選挙の現地取材ルポ。そこから見えたものについてのお話です。

NHKの出口調査も有権者との握手もなし? 新型コロナウイルス禍に行われた熊本県知事選挙、現地ルポ

再選を果たした蒲島熊本県知事。(撮影/畠山理仁)
再選を果たした蒲島熊本県知事。(撮影/畠山理仁)

ほぼ無観客の街頭演説と「エア・ハイタッチ」

 新型コロナウイルスの感染拡大が深刻だ。感染者数は日に日に増え、亡くなる方も増えている。院内感染も発生した。感染経路のわからない人も出た。特効薬もないため、この騒動はしばらく収まりそうにない。

 しかし、それでも選挙は延期されない。そのため、この先も日本各地では「新型コロナウイルス警戒下での選挙」が続くことになる。

 だから私は熊本県にお邪魔した。3月5日告示、3月22日投開票の熊本県知事選挙の現場を記録することは、先行事例として意味があると思ったのだ。
 
 前回も書いたとおり、4選を目指す現職の蒲島郁夫候補は新型コロナウイルス対応で知事の公務に専念するため、全く選挙運動をしていないことは知っていた。

 一方、新人の前熊本市長、幸山政史候補は屋内での集会は行なわないものの、県内各地を遊説して回っていた。選挙戦最終日も終日遊説する予定だという。つまり、熊本に行けば幸山候補には会える。

 朝一番に羽田から熊本へと向かう飛行機は空いていた。熊本空港でレンタカーを借り、さっそく幸山候補の街頭演説が予定される県営東町団地に直行した。
 現場には予定の20分前に着いた。普通なら支援者が待っていてもおかしくない。しかし、まったく人影がない。

 団地が広いから場所を間違えたのか?

 団地周辺をぐるぐる回ると、団地近くのコンビニの駐車場で、黄緑色のジャンパーを着た10人ほどの一団を見つけた。半分ぐらいの人がマスクを付けている。幸山陣営だ。
 集団の後ろを着いていくと、団地内のバス停前で政策ビラを配る準備を始めている。どうやらここで街頭演説が行なわれるらしい。
 私がカメラの準備を進めると、すぐに選挙カーと候補者がやってきた。私の他にはテレビカメラが一台。だが、聴衆は増えない。ビラもはけない。

 幸山候補が演説を始めると、ようやくベランダに出て演説を聞く人を見つけた。家から出てきた人もいた。でも、残念ながら数人だ。人数でいうと、聴衆よりスタッフの方が多い。

「県政を変えることができるのは、私たち一人ひとり、県民一人ひとりであります!」

 幸山候補の演説は、現職の蒲島候補が掲げる「創造的復興」に疑問を呈し、未来への責任を訴える熱いものだった。
 しかし、目に見える聴衆が少ない。演説に呼応する「そうだー!」の合いの手も入らない。ほぼ無観客の街頭演説は、いくら内容がよくても盛り上がりに欠けた。選挙では聴衆も大切な役割を担っていることを痛感した。

 20分ほどの演説を終えると、幸山候補は団地から出てきた数人のもとに駆け寄った。しかし、有権者とは微妙な距離を取る。
 手と手の距離を30センチほど話した位置で、接触しない「エア・ハイタッチ」をする。猛ダッシュをして有権者に近づくが、距離を取って急ブレーキをかける。握手しそうになっても、触れ合わないように気をつかう。
 腫れ物に触らない感じ、と言えば伝わるだろうか。感染のリスクを下げなければという意識が強くあるため、どこかぎこちない。最後は自分の手と手を合わせて拝むような形で挨拶を済ませ、車で次の遊説先へと向かった。

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畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)などの著書がある。
公式ツイッターは@hatakezo

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