2019.9.19
心の底から行きつけにしたくなる食べても呑んでも文句なしの店〜荒木町きんつぎ〜
お料理には「汁」がたくさん出てきます。
最初の「だし」は鰹と昆布のピュアな味で、そのあとの「メカジキ」は魚のコクが加わり、「水餃子」は魚介のうまみと香りが主張している。「クエのあら煮」は生姜とクエのみからでた味がおいしすぎる。「茶碗蒸し」の酸味に探究心がわき、〆のラーメンは「胡麻〜!」と叫びたくなる。
これもすべて“汁ラー”の北村さんゆえの仕業。
「お酒呑む人って汁好きだと思います。常連さんはそろそろ飽きてくるかなと思ったら『だしを飲みたいんだよ』とおっしゃるんです」と北村さん。
わかるなぁ〜。〆にラーメン食べたくなるのも汁が飲みたくなるからなのよね。
店名の「きんつぎ」は先輩たちの想いを繋いでいきたいという発想から。
おでんが看板メニューの学芸大学の「件」にいらした北村さんと佐藤さん。はじめはおでんを受け継ごうかと思ったそうですが、コース料理だと構成しづらい。件のエッセンスをどこに入れようかと考えた結果、最初のだしにしたそうです。毎日だしを引く時に件のマスターのことを想うはず。
いいですよね、こういう繋がり方。
なぜ〆にカレーがあるのか? との問いに「カレーは……、作ったから……」と。
てっきり西麻布の「ルブトン」にいらしたから定番メニューにしているのかと思いきや、そこで一緒に働いていたソムリエさんのレシピだそうです。
しかも実はうっかりの賜物で、「この間、お魚のアラがたくさん出たのでスープドポワソンを作ろうと思って漉していたら、濾しすぎちゃってなめらかさに欠けてしまったのです。それでカレーにしました」と告白。
おかげで絶品の“棚ぼた”カレーを堪能させていただきました。
……ということで、いつもあるわけではないそうです。
2018年7月にオープン。ちょうど1周年を迎えたばかり。
お店に入るとわかりますが、温かみのある中にキリリと一本スジが通っているので、とても安心できるし、心地よい空気感が漂っています。
同じ歳のおふたり、性格はまったく違うそうですが、10,000円で飲んで食べられる使い勝手のいいお店をやりたいという考えが似ていたことで一緒に始めたそう。時期こそ違ったけれど、同じお店で働いていたというのも縁があるってことでしょうね。
料理とお酒という役割は決まっていますが、仕込みは佐藤さんも一緒にするし、メニューを考えるのもふたり。それぞれご贔屓にしていただいているお客さまがいる。「ひとりよりふたり」ってこういうことだろうな。
それに性格が違うと言いながら、なんだかんだ同じことを言っているので似た者同士なのだと思います。ふたりの動きも気遣いもすごく自然で、とてもリラックスできるのです。
だからなのか年齢層は見事に40代後半以上。
ここには荒木町が好きで、おいしいものが好きで、人生を楽しんでいる大人が集まってくるのです。
週1で通う人もいるそうで、「同じものは出せないのですごく勉強させてもらっています」と。
今までたくさんの縁に守られてきた北村さんと佐藤さん。
人が人を呼び予約困難になってはいますが、当日ふらっと入れることもあるそうです。
ガッツリとコースもよし、21時以降のアラカルト狙いもよし、ひとりでもよし、グループでもよし、心から行きつけにしたいお店です。