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Netflixで再び大注目の宇宙SF小説『三体』。その宇宙ネタを徹底解説!

では、現在太陽系以外でどれだけの惑星が発見されているのでしょうか。これらの発見数は執筆時点で、なんと既に5,500個を超えています。
初めての太陽系以外で惑星の発見があったのは29年前の1995年。そこからゆっくりと発見数が増加していき、10年前には750個程度に。さらに観測技術が向上していくことで直近10年間で5,000個近い数の惑星が発見されています。
これだけ多くの星が発見されていると思うと、この中にどこか1つくらいには地球外生命体がいるかもしれないという期待も高まりますよね。

さらにワクワクするのは、5,500個を超える惑星の中で、地球のような環境ではないかと推測される星たちが発見され始めていることです。生命の生存が可能な星という意味から「ハビタブルスター」と呼ばれ、さらにそこに本当に生命が存在できるのかを検証する研究も増えているのです。

近年の太陽系外惑星の研究の中で最も衝撃を与えた発見の一つが、私たちの太陽系に一番近い恒星にも、惑星があったという事実です。しかもこの惑星はハビタブルスターでした。
地球から約4光年離れたアルファ・ケンタウリと呼ばれる星系は、3つの恒星から成る三重連星で、これまで太陽の次に私たちに近い恒星という理由だけで注目されてきました。しかし、観測技術が発達する中で、2016年にその星系の一つ、「プロキシマ・ケンタウリ」に惑星があることがわかりました。

小説『三体』にはこのアルファ・ケンタウリが描かれており、地球とコンタクトをとったのはこの星系からでした。
作品が書かれたのは2006年~2008年。アルファ・ケンタウリ星系にあるプロキシマ・ケンタウリの存在はわかっていたものの、惑星は発見されていません。しかも、発見された惑星はその後の研究で生命が生存できる環境である可能性まで指摘されているのです。

『三体』の舞台となったプロキシマ・ケンタウリにある惑星だけにとどまらず、他のハビタブルスターの発見も続いたことから、私たちのいるこの環境は特別ではないのかもしれない、とつい考えてしまいます。地球外生命体の存在も、ただのロマンではなくなってくるかもしれません。

生命にとって重要なのはやはり水の存在です。2024年1月末にNASAの衛星が、水が液体のまま存在することができる可能性が高い惑星を137光年先に発見しました。他にも水を保持している可能性が指摘される星の発見が続き、生命の存在可能性を期待せざるを得ない状況になってきています。
宇宙における水は重要で、今盛り上がりを見せている月面探査も約120年に及ぶ月面水論争を引き起こしていたほどです。この連載の初回に紹介しましたね。

そして、今後もますます水を保持する惑星を発見する可能性が高まっています。そのカギを握るのは、2021年に打ち上げられ、これまで様々な美しい表情を見せる天体写真を私たちに届けてくれているジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の存在。
開発期間がどんどん伸びたことで「宇宙界のサグラダファミリア」とも言われたこの宇宙望遠鏡ですが、これまでになし得なかった精度で星を観測できる高度な性能を持っています。宇宙で初めてできた星(ファーストスター)を観測することを目的にした望遠鏡のため、地球からはるか離れた宇宙の果てまでをも見ることができる能力を有している史上最高の望遠鏡の一つです。

宇宙を探査するジェームス・ウェッブ望遠鏡のイメージ図 画像提供/NASA
宇宙を探査するジェームス・ウェッブ望遠鏡のイメージ図 画像提供/NASA
公開されたジェームズ・ウェッブ望遠鏡 写真提供/NASA
公開されたジェームズ・ウェッブ望遠鏡 写真提供/NASA

ジェームズウェッブが観測を行おうとしているのは、過去の研究で既に水の存在する可能性がとても高いとされている天体たちです。例えば、97光年先にある惑星で水蒸気の可能性を示すシグナルを検出した研究がありました。その星は太陽系以外の惑星で水の存在が強く期待されていて、ジェームズウェッブの重要観測対象とされています。
宇宙にはこのような星が他にもいくつかあり、これらの星たちが史上最高の性能で観測されることで、本当の意味で地球のような水の惑星が見つかることへの期待が高まっているのです。

『三体』が中国で単行本として出版されたのが2008年。その作品の宇宙への描写と理解は目を見張るものがありますが、小説をきっかけに進化した科学技術が今後どうなっているかを知ることも、SF作品を楽しむ方法の一つなのではないかなと私は思っています。
小説の世界で描写されていることが、最新の科学でより現実味を帯びた部分もあり、ファンはさらにその熱量を高めています。Netflixのドラマでハマった方には、繊細な宇宙描写が本格的な小説版もお勧めします。

この記事のお供はこのお酒!

 アメリカオレゴン州にあるGreat Notionの「Luminous 05」。このブルワリーの看板であるサワーIPAは、三体の小説シリーズ読んだ人なら分かる「常に監視されている」という状況をそのまま描いたかのようなパッケージです。パッションフルーツとドラゴンフルーツの出す酸味が強く、そこに乳糖とバニラで甘味が加えられているそう。酸味の主張が強いのでサワーっぽさを全力で感じたい人におすすめです。日本のオンラインショップなどで購入可。

 次回連載第9回は4月12日(金)公開予定です。

参考資料

5,000 Exoplanets: Listen to the Sounds of Discovery (NASA Data Sonification) /Youtube NASA 2022/03/22

NASA EXOPLANET ARCHIVE A SERVICE OF NASA EXOPLANET SCIENCE INSTITUTE

系外惑星探査とは?/国立天文台 太陽系外惑星探査プロジェクト室

nature ダイジェスト「わずか4.4光年先に、地球大の惑星!」/nature asia

海外の宇宙ニュース:M型矮星を周回する惑星の環境を解明する/Cosmos いま、ISASで起きていること 2021年5月27日

Discovery Alert: A ‘Super-Earth’ in the Habitable Zone /NASA 2024/1/31

Water Absorption in the Transmission Spectrum of the Water World Candidate GJ 9827 d /The Astrophysical Journal Letters 2023 年 9 月 12 日

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佐々木亮

ささき・りょう
理学博士。独立行政法人理化学研究所、NASAの研究員として研究に携わり、その経験と知見を生かし、ポッドキャスト「佐々木亮の宇宙ばなし」を毎日配信している。旬の宇宙トピックスを親しみやすく解説する内容で注目を集め、Apple Podcast日本ランキング3位を達成。第3回Japan Podcast Awardsも受賞する。現在はデータサイエンティスト、中央大学講師として活動している。
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