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五反田のマッサージ店で想起した切ない思い出……僕は「気持ち悪い男」なのだろうか?【平成しくじり男 第9回】

私小説『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』で注目を集めたの山下素童のエッセイ連載。

前回、山下さんが衝撃を受けたアダルトビデオのレビューでした。
今回は、五反田のマッサージ店で想起した、中高生時代の切ない思い出のエピソードです。
イメージ画像:PIXTA
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「急にご飯とか誘ってくる気持ち悪いお客さんもいて!」

世の中には2種類の男しかいない。気持ち悪い男か、それ以外か──

そんな2択の問いが、生きているとたびたび降りかかってくる。

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3月のとある日。夕方過ぎに五反田で仕事用が終わり、体が疲れていたのでマッサージ屋に行きたくなった。スマホでHOT PEPPER Beautyのページを開いて検索すると、近くにマッサージ屋を見つけることができた。

そこはオイルマッサージの店だった。スタッフ欄のページをタップすると、「オーナーセラピスト」という役職名の書かれた30歳ほどの女性の写真が1枚だけあった。その他のスタッフは1人もおらず、どうやらオーナーセラピストの個人店のようだった。

30分後の予約を入れると、予約確定のメールが届いた。そこに記載されていた住所へ向かうと、住居用にしか見えない綺麗なマンションの一室に到着した。

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インターフォンを押すと、童顔で髪を赤く染めた女性が出てきた。用意されたスリッパを履いて部屋に上がると、玄関を入ってすぐのところにキッチンがあり、その先にある7畳ほどのワンルームには施術台と1人掛け用のソファが置かれていた。

オーナーの女性の案内に従ってソファに座ると、彼女がキッチンのほうからお湯の入った大きなタライを持ってきた。そのタライの中に足先を浸からせてもらいながら、簡単なカウンセリングを受けた。どこでこの店を知ったのか、マッサージの力加減はどうするか、どこら辺が凝っているのか、オイルは無香料がよいか──それから渡された紙パンツに着替えて施術台にうつ伏せになると、オイルマッサージが始まった。

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マッサージ中、彼女はまるでラジオのようによく喋った。

「このまえ台湾人の男のお客さんが来たんですけど、マッサージ中にオナラしてきてすごく臭かったんですよ!」「私、女友達に奢っちゃう癖があって。だからめっちゃ後輩の女の子に好かれるんです」「こういうマッサージしてるとセクハラしてくる人が多くて。まぁ、前職がデリヘルの仕事だったから平気ではあるんですけど」「あと、急にご飯とか誘ってくる気持ち悪いお客さんもいて!」「あっ、でもいい人だな、って思ったら普通にお客さんともご飯行くんですよ私は」

相槌を打ちながら彼女の話を聞いていたら、いつのまにか、1つの問いが自分の頭の中をかけ巡っていることに気がついた。

彼女にとって僕は、一緒にご飯に行きたくなる男だろうか? それとも、気持ちの悪い男だろうか?

僕と同じ1992年生まれで、”現代ホスト界の帝王”と呼ばれたローランドは「世の中には2種類の男しかいない。俺か、俺以外か」という格言を残した。それになぞらえて言うならば、「世の中には2種類の男しかいない。気持ち悪い男か、それ以外か」ということである。

彼女のように「気持ち悪い男」の話をする女性を目の前にすると、どうしてもその2択が頭の中を支配してしまう。いつからこうなってしまったのだろうか。考えてみて思い出すのは、もう20年も前の出来事だ。

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あれは、中学2年生の夏休みのことだった。

仲のよかった男友達1人と女友達2人の計4人で、公園で花火をする約束をしたことがあった。

16時に商店街の花火屋さんに集合ということになったのだけど、当日の午前中、メンバーの女の子の1人であるYちゃんから「花火の前に話したいことがあるから、家に行ってもいい?」とメールが来た。

Yちゃんは、小学生のころバレンタインデーに手作りチョコを自宅まで届けてくれたことがあったし、当時流行っていたプロフィール帳の「好きな人」の欄に僕のイニシャルを書いてくれたこともあった。僕もYちゃんのことが好きだったから、両想いであると思っていた。そんなYちゃんが1人で家に来るということは、もしかしたら正式に告白される可能性があるかもしれない。心のどこかでそんな期待を抱いていた。

しかし部屋にやってきたYちゃんの口から出たのは、まったく予想外の話だった。

「この前さ、Kくんに呼び出されて告白されて断ったんだけど。家に帰ったら『本当はキスしたかった』ってメールが届いて。めっちゃ気持ち悪かった」

Kくんとは、僕の仲のいい友達の1人だった。KくんがYちゃんのことを好きだということは初耳だった。確かに、振った人から直後にそんなメールを送られてくるのは気持ち悪いかもしれない。ただ、手放しにKくんのことを断罪できない自分もいた。正直にいうと、Yちゃんが1人で家に来ることが決まってから、もしかしたらキスとかする展開になるかもしれないと期待していた自分がいたからだ。そんな僕の気持ちとは裏腹に、Yちゃんは続けた。

「だって、キスとか気持ち悪いじゃん?」

その言葉を聞いて大きなショックを受けた。自分のなかにある「Yちゃんとキスがしたい」という気持ちは、Yちゃんにとっては気持ちの悪いものなのだ。

少しでも自分がそうした下心を持っているとは悟られないよう、Yちゃんと距離を保ったまま1時間ほど雑談を続けた。16時が近づいてきたところで先にYちゃんが家を出て、僕は待ち合わせ場所の花火屋さんに後から合流し、何食わぬ顔で公園で花火を楽しんだ。

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新刊紹介

山下素童

1992年生まれ。現在は無職。著書に『昼休み、またピンクサロンに走り出していた』『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』。

X(旧Twitter)@sirotodotei

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