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新型コロナの流行は生態系からの警告! ヒト由来の風邪で死亡したボノボが教えてくれること

ヒト由来の風邪でボノボが死亡

私が調査に訪れたコンゴ民主共和国のとある地域では、ボノボが、ヒトにとっては何でもないような風邪で死亡しているという研究報告が出ていました。

この地域ではボノボが暮らす森を地元住民も利用しています。また、住民たちはボノボを森に棲むご先祖であると信じており、とても大切にしています。物理的接触はもちろんしていませんが、ヒトに対するボノボの警戒心は低いように私も感じました。
そこで、ボノボを追跡調査し、彼らの食べ残しなどを調べたところ、確かにヒト由来の病原体が検出されました。
物理的接触はなくても生活圏が近いため、風邪がヒトからボノボに感染し、呼吸器疾患の重篤化により死亡するという事態が起きていたのです。

調査に訪れた森で出会ったボノボ。(画像提供/大渕希郷)
調査に訪れた森で出会ったボノボ。(画像提供/大渕希郷)

ボノボの風邪に限らず、ある動物にとっては大したことのない病気が、別の動物にとっては甚大な影響を及ぼすということはよくあります

たとえば、1994年のタンザニアで、それまでイヌ科かその近縁の動物にしか感染しないとされたウイルスによって、ネコ科のライオンが大量死しました。
ウイルスの突然変異により、ライオンにも感染可能になったためです。

変異ウイルスにとって、新しい宿主の体は未知の世界。新しい環境に慣れていないウイルスは、宿主の免疫的攻撃に対抗してあらゆる防御手段に出ます。結果的に攻防が激化、激しい症状となるようです。

菌類が感染症の原因となることも

ここまでウイルスを例にあげてきましたが、感染症の原因はウイルスだけではありません。

たとえば「カエルツボカビ症」という、世界中のカエル類に甚大な被害をあたえた感染症は菌類(真菌、いわゆるカビ類)が原因でした。

私も、上野動物園では両生爬虫類館勤務で、カエルツボカビ症の検疫業務も担当していました。
この感染症は、のちにアジア由来であることが示唆され、日本産カエル類は感染しても重症化しないような耐性をもっていることがわかっていますが、海外ではいまだ猛威をふるっています。

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新刊紹介

大渕希郷

おおぶち・まさと●どうぶつ科学コミュニケーター
1982年神戸市生まれ。京都大学大学院博士課程動物学専攻、単位取得退学。その後、上野動物園・飼育展示スタッフ、日本科学未来館:科学コミュニケーター、京都大学野生動物研究センター・特定助教(日本モンキーセンター・学芸員 兼任)を経て、2018年1月に独立。生物にまつわる社会問題を科学分野と市民をつなげて解決に導く「どうぶつ科学コミュニケーター」として活動中。
夢は、今までにない科学的な動物園を造ること。特技はトカゲ釣り。
著書に『新ポケット版 学研の図鑑絶滅危機動物』『新ポケット版 学研の図鑑 爬虫類・両生類』(いずれも学研教育出版)、『絶滅危惧種 救出裁判ファイル』『動物進化ミステリーファイル』(いずれも実業之日本社)、『どうぶつ恋愛図鑑』『へんななまえのいきもの事典』(いずれも東京書店)など。最近は、「こども環境地球儀ハトホル」(渡辺教材教具)など教材開発にも関わる。愛称はぶっちー。
公式ホームページ: http://m-ohbuchi.com/

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