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大渕希郷「動物ふしぎ観察記」

致死率ほぼ100%! イヌだけじゃない、ネコもヒトも感染する「狂犬病」感染の恐怖

世界初の「どうぶつ科学コミュニケーター」として、講演活動やフィールドワーク、執筆活動など幅広く活動中の大渕希郷さん(通称・ぶっちー)。
動物まみれのめまぐるしくも愉快な日常とは……!?  
生き物の知られざる生態についても、自筆のイラストとともに分かりやすく解説します。
動物の専門家によるお仕事&科学エッセイです。

前回は、動物番組の監修をしていて出会った、動物の生態をめぐる「ガセネタ」を紹介しました。
今回は、動物由来の感染症についてのお話です。

動物の「毒」よりも「感染症」が怖いワケ

新型コロナウイルスの影響で、この1年ほどワクチンや予防接種に関する情報に接する機会が増えた方、関心が高まった方も多いのではないでしょうか。

実は、動物に関わる人間の“職業あるある”のひとつに、予防接種を受け慣れているということがあります。
一般の人より、動物由来の感染症にかかる可能性が高いためです。

私も、上野動物園の職員だった時は、破傷風や狂犬病など、いくつかのワクチン接種が義務づけられていました
動物園退職後も、頻度はそのワクチンの種類によりますが、必要に応じてA型肝炎などの予防接種を受けています。生態調査で海外を訪れる際に、特定のワクチンを接種していないと入国できない国もありました。

2016年に予防接種を受けた時の記録。狂犬病ワクチンはすでに接種済みだったためこの年は受けていない。(画像提供/大渕希郷)
2016年に予防接種を受けた時の記録。狂犬病ワクチンはすでに接種済みだったためこの年は受けていない。(画像提供/大渕希郷)

動物との接触で命に関わる事態というと、多くの方が「毒」を心配されると思います。
確かに、毒は危険です。
実際、私も調査業務の一環でボルネオ島を訪れた際、スズメバチ類に刺されて九死に一生を得た経験をしています。

しかし、私は毒以上に、病気(感染症)の方が恐ろしいと思っています。
なぜなら自分が媒介者となって他の人や動物にうつしてしまう可能性があるからです。

狂犬病には有効な治療法がない

動物由来の感染症には、日本では北海道のキタキツネが主な感染源となるエキノコックス症や、蚊に刺されることによって感染するデング熱など、様々あります。
致死率が高いという意味で、私が特に恐れているのは、狂犬病です。

狂犬病は、狂犬病ウイルスを保有する動物に咬まれたり、引っ掻かれたりしてできた傷口からのウイルスが侵入することで感染します。

発症した際の致死率はほぼ100パーセント。発症してしまうと有効な治療法がありません

日本では、1950年に狂犬病予防法が施行されてからは、飼い犬の登録や予防注射が義務化され、野犬の捕獲も進み、1956年以降は国内で感染した例は見つかっていません。

しかし2020年には、フィリピン滞在中、イヌに咬まれた男性が帰国後に発病して死亡するという事例がありました。
近年でも国内に狂犬病ウイルスは持ち込まれているのです。

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大渕希郷

おおぶち・まさと●どうぶつ科学コミュニケーター
1982年神戸市生まれ。京都大学大学院博士課程動物学専攻、単位取得退学。その後、上野動物園・飼育展示スタッフ、日本科学未来館:科学コミュニケーター、京都大学野生動物研究センター・特定助教(日本モンキーセンター・学芸員 兼任)を経て、2018年1月に独立。生物にまつわる社会問題を科学分野と市民をつなげて解決に導く「どうぶつ科学コミュニケーター」として活動中。
夢は、今までにない科学的な動物園を造ること。特技はトカゲ釣り。
著書に『新ポケット版 学研の図鑑絶滅危機動物』『新ポケット版 学研の図鑑 爬虫類・両生類』(いずれも学研教育出版)、『絶滅危惧種 救出裁判ファイル』『動物進化ミステリーファイル』(いずれも実業之日本社)、『どうぶつ恋愛図鑑』『へんななまえのいきもの事典』(いずれも東京書店)など。最近は、「こども環境地球儀ハトホル」(渡辺教材教具)など教材開発にも関わる。愛称はぶっちー。
公式ホームページ: http://m-ohbuchi.com/

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