2021.8.30
オノシタキリコの話
オノシタキリコという人は、いた。
でもそれは四十歳過ぎの太ったオバさんで、老人の母親と二人で暮らしているだけ。その親子が、変な噂を流したことを謝れって言ってきたんだけど……。
あの家には、赤い女なんていなかったんだ。
じゃあ皆が見たものは、いったいなんだったのか?
正確には、その時点からなんだよね。
「オノシタキリコ」の名前を呼ぶとオノシタキリコが現れる、って噂が出来上がったのは。
オノシタキリコは、家の外にも出るようになっちゃったんだ。
多分それは、私たちが勝手につくった幻みたいなものなんだろう。「赤い女がいた」って最初に言った子が誰なのか知らないけど、それも噓ついただけだったと思うよ。
でも、どんどん噂が広まるうちに、皆が信じていくうちに、本当になってしまうことってある。
私たちだって、怖いんだったら名前を呼ばなければいいのに。赤い女について話さなければいいのに。でもやっぱり、どうしても名前を呼んで、語りたがっちゃうんだよね。
現に今、私がこうして、あなたに話しちゃってるんだから。
……ああ、そうか。
そういうことなんだ。
名前なんて、どう呼ぼうが関係ないんだね。
オノシタキリコ、なんて適当に呼んだからって、出てこなくなる訳じゃないんだね。
その女について話したら、もうダメなんだ。
ほら、窓の外見てみなよ。
遠くから、こっち、にらんでるから。
8月6日 あの家に住んでいた頃のこと
8月9日 川の上流から流れてくるもの
8月13日 「チヨちゃんが来たんだね」
8月16日 小人が見える女子大生
8月20日 夏休みに流れた噂
8月23日 振り向いてくれない美人教師
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7月4日 設置されては撤去されるブランコの秘密
7月6日 クラスメイトの机に置かれた手紙
7月9日 誰も来ないはずの男子トイレで目にしたもの
7月13日 息子に見えている母の顔
7月15日 内線電話から聞こえてくる声
7月19日 祖母に禁じられた遊び
7月22日 僕にだけ聞こえてくる音
7月27日 この子は大人になる前に死ぬから
7月30日 隙間から入り込もうとするもの