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オノシタキリコの話
めくるたび、どんどん怖くなる。
『一行怪談』で知られる吉田悠軌さんの書き下ろし怪談集『日めくり怪談』から選りすぐりのお話をご紹介します。
1日5分の恐怖体験をお楽しみください。

オノシタキリコの話

 オノシタキリコ。
 実は私たち、そんな名前で呼んでなかったけど、ちょっと変えさせてもらうね。
 だって別の呼び方しておかないと、その女が来ちゃうらしいから。
 オノシタキリコは、自分の名前を口にした子のところに必ず現れる、妖怪みたいな女。
 日本中でよく聞く噂だよね。インターネットで調べると、似たような情報がけっこう出てくるし。そういうの、たいてい赤い服を着た女なんだけど、オノシタキリコも「赤い女」だって言われてたし。

 でも、他とは違う大事なところ。オノシタキリコは、本当に私たちの町にいたんだよ。 
 うちの小学校では皆、そのことを知ってた。
 オノシタって表札の家が実在してたのは、私も確認してる。そこに住んでいる「赤い女」だって、何人も目撃してた。
 そう、自分からオノシタキリコを見に行った子たちがいるんだよね。庭を赤い女が歩いていた、ガラス戸越しに立っている赤い女の姿が見えたっていうの。
 ただ不思議なのは、誰一人として、その女の顔や着ている服を、きちんと覚えていないこと。

「じゃあなんで赤いってわかるの? 赤い服を着てたの? 赤い髪でもしてたの?」
 そんな質問に、満足に答えられた人はいない。自分から「赤い」と言うのに、何が赤かったのかはわからない。
「とにかく……赤い女なんだよ」皆、困った顔をして、そう答えるだけ。
 それでも実際の目撃例があるのは大きいよ。他の小学校もまたいで、オノシタキリコの噂はどんどん広がっていった。
 家の壁からオノシタキリコが覗いていた。実は身長が3mもある。家にいるところを見たら十秒以内にオノキリオノキリオノキリと三回唱えないと死ぬ……などなど。
 オノシタキリコに包丁を投げつけられたって子まで出てきたなあ。それはもちろん噓だったんだけど、とにかくたいへんな騒ぎだった。

 そしてついに、先生たちが動かざるをえなくなった。
「オノシタさんから、学校に苦情がきています」
 家を覗き込んだ子、いちばん噂を広めてた子たちは、さんざん怒られた。さらに説教だけじゃなく、その数人で、オノシタさん家まで謝りに行かされる羽目になったんだ。
 あいつら、どうなっちゃうんだろう。オノシタキリコに殺されるんじゃないか?
 もう現実と噓の境目がわからなくなってるから、残された私たちはドキドキしてた。
 翌朝、登校してきた彼らはヒーロー扱いだよね。皆で詰めよってあれこれ質問したんだけど、返ってきた答えは予想外のものだった。
 

(イメージ画像/写真AC)
(イメージ画像/写真AC)
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吉田悠軌

よしだ・ゆうき●1980年東京都出身。怪談、オカルト研究家。怪談サークル「とうもろこしの会」会長。オカルトスポット探訪マガジン『怪処』編集長。怪談現場、怪奇スポットへの探訪をライフワークとし、執筆活動やメディア出演を行う。『怪談現場 東京23区』『怪談現場 東海道中』『一行怪談』『一行怪談漢字ドリル 小学1~4年生』『禁足地巡礼』『日めくり怪談』『一生忘れない怖い話の語り方 すぐ話せる「実話怪談」入門』など著書多数。
Twitterアカウント:@yoshidakaityou

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