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夏休みに流れた噂

夏休みに流れた噂

 まだ陽は落ちていないが、山中はやけに薄暗く、まるで夕暮れ時のようだった。鬱蒼とした林の陰に、白いものが佇んでいるのがチラリと目に入る。
 声を押し殺して近づいていく。するとその分、シロンボもゆっくり四つんばいで歩を進め、またぴたりと立ち止まる。
 静かな追跡が繰り返されるうち、四人は小さな洞窟へと誘い込まれていった。
 
 この場所なら、彼らも知っている。昔は小さな祠が置かれていた洞窟だ。土砂崩れが起きてからは入り口も狭くなり、立入禁止の黄色いテープが張られるようになった。でも子どもなら、頭をかがめればなんとか侵入できる。シロンボの後ろ姿は、その穴へと消えていった。
 ケータイのライトをつけ、四人は穴の中を覗いてみた。内部は崩れ落ちているから、洞窟といってもすぐ行き止まりとなっている。そして確かにシロンボは、ケータイの明かりが届くところにしゃがんでいた。
 先頭のD君が悲鳴をあげた。四人とも大慌てで走り去っていった。
 遠ざかる声は、口々に僕の名前を叫んでいた。
 夏の初めに川で溺れ、まっ白い体で発見された、僕の名を。
 それからというもの、「シロンボ」という呼び名の代わりに、僕の名前が、子どもたちの間でささやかれるようになったのだ。

8月の『日めくり怪談』特集一覧
8月2日 空を飛ぶ夢を見るようになったら
8月6日 あの家に住んでいた頃のこと
8月9日 川の上流から流れてくるもの
8月13日 「チヨちゃんが来たんだね」
8月16日 小人が見える女子大生
8月20日 夏休みに流れた噂
8月23日 振り向いてくれない美人教師

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7月の『日めくり怪談』特集一覧
7月2日 夜道を歩く女性の二人組が向かう先
7月4日 設置されては撤去されるブランコの秘密
7月6日 クラスメイトの机に置かれた手紙
7月9日 誰も来ないはずの男子トイレで目にしたもの
7月13日 息子に見えている母の顔
7月15日 内線電話から聞こえてくる声
7月19日 祖母に禁じられた遊び
7月22日 僕にだけ聞こえてくる音
7月27日 この子は大人になる前に死ぬから
7月30日 隙間から入り込もうとするもの
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新刊紹介

吉田悠軌

よしだ・ゆうき●1980年東京都出身。怪談、オカルト研究家。怪談サークル「とうもろこしの会」会長。オカルトスポット探訪マガジン『怪処』編集長。怪談現場、怪奇スポットへの探訪をライフワークとし、執筆活動やメディア出演を行う。『怪談現場 東京23区』『怪談現場 東海道中』『一行怪談』『一行怪談漢字ドリル 小学1~4年生』『禁足地巡礼』『日めくり怪談』『一生忘れない怖い話の語り方 すぐ話せる「実話怪談」入門』など著書多数。
Twitterアカウント:@yoshidakaityou

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