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あいつぐ出禁!? 柴田勝家の心が徐々に推しから離れていった理由

二度目の不祥事

 そして決定的な事件が起こった。

 ある日の夜、ワシが自宅でのべーっとしていると突如としてスマホに着信があった。見れば相手はヨシ君だ。時期は7月、別に織田きょうちゃん関連のイベントもないから、個人的な連絡だと思った。

「あ、勝家さん」

「お、ヨシ君、どしたー」

「すいません、自分……出禁になりました」

 あー、と口は大きく開いてしまったが、なるべく平静を努めた。通話先のヨシ君は非常に申し訳なさそうで、何度もワシに謝ってきていた。

「どしたどした?」

「実は、ですね、その……。この間、街できょうちゃんと出会って……」

 話を聞けば、ヨシ君は出先できょうちゃんと会ったという。とはいえ、それで出禁になるはずもない。よくよく話を聞けば、二人で写真も撮っており、それが店に露見したのだという。

「あー、なるほどな」

 まず思い出したのは、以前にパピさんと付き合っていたという話が出た時のことだ。偶然に出会ったという話だから、そこは深掘りしないでおこう。その時のワシにとって、それは建前でも何でも良かった。ただ恐らく、この話を聞いた他人は二人がデートしていたと思うだろう。

 しかし、不思議と怒る気持ちにはならなかった。ヨシ君は織田軍の筆頭というだけで、わざわざワシに報告してきてくれた。彼のほうが悔しい思いをしているだろうに。

「気にするな。過ぎたことだ。それよりヨシ君、戦国メイド喫茶は出禁になってしまったが、これからも遊ぼう。あの店でなくとも会えるさ、だから秋葉原には来てくれよな」

「はい……、ありがとうございます!」

 そしてワシはヨシ君との通話を終えた。実際のところ、本当に怒っていなかった。むしろ晴れ晴れとした気持ちすらある。その後、のぶにゃんとも情報を共有した。のぶにゃんもヨシ君のことを全く怒っておらず、ワシと同様に彼の方を心配していた。まったく良い男ばかりだぜ。

「しかし……。そうか、これで織田きょうちゃんもクビかな」

 パピさんの時に続いて二度目の不祥事である。さすがに庇いきれないし、そんなことをしても誰も喜ばないだろう。不思議と充足感はあった。きょうちゃんは織田の名跡を継ぎ、店のナンバーワンとなった。

 もう十分やってきた。北ノ庄城が落城した時の柴田勝家も、こんな気持ちだったかもしれない。

 かくして翌日くらい、ワシが切腹の準備をしつつ戦国メイド喫茶に行くと、まずお店の人から呼び出された。二人して店の非常階段に陣取り、厳かに話を始めた。

「あの……ですね、織田きょうちゃんのことなんですが」

「クビっすか?」

「あ、いえ、その! 謹慎……、という形で手を打とうかと」

 これぞ前代未聞の裁定であった。ワシは複雑な表情を作っていたと思う。不祥事ではあるが、一方で情状酌量の余地あり、また店での人気を考えればいきなりのクビも難しい。かくあっては織田軍筆頭のワシの意見も聞こうというものだ。

 果たしてワシの答えは……。

「あー、別に大丈夫っすよ。しばらく店にも来ないんで」

「ええ!?」

 違うのである。決して戦国メイド喫茶を嫌ったわけではない。単純に、数日後にSFのワールドコンでフィンランドに行く予定だったからである。しかも帰国後に疲労骨折を起こして、ワシの方が自宅謹慎となってしまったのだ。

 かくしてワシは戦国メイド喫茶に通うようになって初めて、一ヶ月以上も推しと会わない時間を過ごしたのだ。

(つづく)

 次回連載第21回は9/8(木)公開予定です。

記事が続きます

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柴田勝家

しばた・かついえ
1987年東京生まれ。成城大学大学院文学研究科日本常民文化専攻博士課程前期修了。2014年、『ニルヤの島』で第2回ハヤカワSFコンテストの大賞を受賞し、デビュー。2018年、「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」で第49回星雲賞日本短編部門受賞。著書に『クロニスタ 戦争人類学者』、『ヒト夜の永い夢』、『アメリカン・ブッダ』など。

Twitter @qattuie

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