2026.5.12
占いと心理学、心を照らすふたつの光――石井ゆかりさんが読む『昼間のスターゲイザー』
混ぜるな、危険。 交じり合わず、響き合うもの

こんなに楽しそうな鏡リュウジさんは見たことがない。
もとい、鏡さんは一昔前でよく言う「座談の名手」のような方で、どんなテーマでも自在に膨らませて人におもしろく聞かせ、相手からも話を引き出すことが巧みな方である。ありがたいことに私も何度も対談させて頂いている。鏡さんが話せばなんでも、知的におもしろい記事となり、トークイベントや講義などでは、いつも聴衆を魅了している。
ただ、これほど「盛り上がっている!」という感じは記憶にない。お二人とも「もっと話したいことがある」気配が、本書の行間に溢れている。私が相手ではこうはならない。それはもちろん、私の学識の圧倒的な欠如、経験や思考の浅さのためだが、多分それ以外にも、なにか秘密があるように思う。とにかく、相手が違うとこんなに違うんだ! と、ひしひし身に染みた。
……などとうらやましがっていても書評にならないので、気を取り直して書いてみる。
本書は冒頭にも記されているとおり、臨床心理士である東畑開人さんと、占星術研究家である鏡リュウジさんが、二人で「占いとは何か」を語り合った本である。私にとっては、これまで興味を持って一丁嚙みして来た分野について、もっと学び直すことを促されるような読書体験であった。知っているつもりのことがぜんぜんちゃんとわかっていない、ということに気づかされ、変な汗が出た。おもしろくないところがない。手をあげて「私はこう思います!」と発言したくなるところもたくさんある。占い好きだけでなく、心理学、科学史に興味がある人にも、知的好奇心をざくざく刺激される剣山のような一冊だろうと思う。
本書の前書きには、この座組で最も大事なことが書かれている。即ち「占いと心理学は混ぜるな、危険」。
これは本当に大事なことなのである。なぜなら、両者はごく近くにある。どちらも、悩みを抱えた人が、だれかに会いに来る、という建て付けだ。そこまでは同じなのだ。しかし、そこから先は厳然と異なる。占いは占いであり、心理学は心理学なのである。
占いには科学的裏付けは(今のところ)存在せず、人間理性としてそれを信じるべき、なんらの社会的・論理的根拠も存在しない。一方、心理学は心理学である。人間理性に基づく科学という方法論を用いて、研究者や実践家たちがブラッシュアップし続けている学問である。人間理性はもちろん、無謬ではない。無謬どころか、多くの間違いをする。しかし、理性に限界があるにせよ少なくとも人間存在の中では「今のところこれを頼るしかない」という、なけなしの能力なのだ。現代社会は理性を、よりどころとして選び取ったのだ。
占いは、花をむしっても靴を投げても占える。当たるも八卦当たらぬも八卦、責任がないのである。一方の心理学には、社会的責任がある。責任がないものとあるものを混ぜると、大変なことになる。
現在占いの側は、無邪気に心理学から色々な道具やアイデアを採り入れて使っているところがある。しかし占いは心理学の側には、入れない。心理学だけでなく、たとえば科学史や歴史、その他諸々、学問の側では必ず「占いは非科学的なもの、占星術は疑似科学に過ぎず、私はそれを信じるものではないし、むしろその弊害を訴えるためにも、この研究をするものである」と述べた上で、占いを論じるのである。「私は占いなど信じていないし、あれはインチキである」という祝詞を置くのが、学者のマナーなのである。魔除けなのである。
そうした祝詞のある書物をいくらか生かじりしてきた私としては、この「占いと心理学は混ぜるな、危険」の一言は「さもありなん」と、あたりまえに受け取った。しかし問題はそのあとの、本書の本文である。混ぜてはいけないなら、ほどよく遠ざけねばならないはずなのに、これはどういうことだろう。ほとんど崖の絶壁、キワから落ちるギリギリのラインをうろうろしている。二人ともタロットカードの「愚者」よろしく、危険を弄ぶかのように「混ぜるな危険」のすれすれでやりとりをしているのである。
もちろん、それは名人同士だからできることなのだ。私は本書を読む中で、あたかもあの、フィギュアスケートの演技を見るような思いがした。危ないのである。氷のようなツルツル滑るところで人を放り投げたりしたら無論危ない。観衆はそういう演技をハラハラしながら見つめ、名人芸に感動している。本書もちょっとそんなところがある。混ざりそうで混ざらない。落っこちそうで落ちない。近づいては引き戻し、ともすれば絡み合ってほどけなくなりそうな両者を、濃やかに分けながら対置していく。時に隣接させても、混濁が起こらない。良い本というのは、スリルがあるものである。この本はそういう意味で、非常にスリリングな本である。
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