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戦国メイドカフェでの柴田勝家の全盛期? そして新時代の幕開けへ……

マツコ・デラックスが驚愕し、神田伯山を絶句させた、異形のSF作家・柴田勝家。武将と同姓同名のペンネームを持つ彼は、編集者との打ち合わせを秋葉原で行うメイドカフェ愛好家でした。2010年代に世界で最もメイドカフェを愛した作家が放つ、渾身のアキハバラ合戦記。 前回は、かおりこちゃんの切ない卒業エピソードでした。 今回は、柴田さんの戦国メイドカフェでの「全盛期」と言える青春の一コマです。
イラスト/ノビル
イラスト/ノビル

織田信長政権の全盛期はいつか?

 いきなりの話題だが、戦国時代における織田信長政権の全盛期はいつだろうか。無論、様々な研究があるだろうが、個人的には一乗谷の戦いで朝倉氏を攻め滅ぼした天正元年(1573年)からの数年であると思っている。その後、信長公は長篠の戦いで武田に勝利し、やがて朝廷と寺社勢力、堺商人といった政治力すら掌握していったのだ。そして安土城の完成をもって、信長公の時代が内外に知らしめられた。

 一方、戦国メイド喫茶におけるワシの全盛期はいつだろうか。無論、研究されているはずもないだろうが、個人的には真田かおりこちゃんが卒業し、朝倉きょうちゃんを見守っていく決意をした平成28年(2016年)の後半からの一年間くらいの間だと思っている。

 この頃からワシも目立つような存在となり、友人たちも多くおり、一緒にイベントを盛り上げようという仲間たちも増えていったのだ。

「勝家さん、今度のきょうちゃんのイベント、私も手伝います!」

 そう名乗り出てくれたのは、以前に真田軍だったつばささんだ。かおりこちゃんの卒業イベント以来、朝倉軍にも協力してくれることになったのだ。そして仲間となってくれたのは彼だけではない。

「なんか朝倉軍って楽しそうだな、って」

 ある日、そんな流れで会話するようになった二人組の男性客がいた。

 香港の映画俳優みたいな容姿でオシャレ番長なルシファー(メイド喫茶ネーム)と、プロレスラーみたいな体格で気さくな兄ちゃんののぶにゃん(メイド喫茶ネーム)だ。

「きょうちゃん可愛いから、推したいって思ってたんだよね」

「勝家、俺らも一緒に次のイベントやらせてくれや」

 二人は関西で同じ会社に勤めており、東京出張でたまたま秋葉原に飲みに来た中で戦国メイド喫茶にハマったのだという。推しに対してチーム一丸となって動く軍の姿を見て、自分たちも参加したくなったそうだ。

「次は生誕イベントじゃな、みんなで花とか買いに行こう!」

 こうしてワシらはメイド喫茶で集まり、メイドさんなんてそっちのけ、男同士で楽しく過ごすことが多かった。悲しいかな、いかに女性を中心に回るメイド喫茶といえ、男は男同士でつるむことを楽しく思ってしまう生き物なのだ。

 で、それを楽しく思うのは彼も同じだったのだろう。

「パピさん、きょうちゃんのイベント来る?」

「ぶっ! 行ける訳ないでしょ、気まずいし……」

 ある日の戦国メイド喫茶、非常階段でワシは懐かしい友人と出会った。あのきょうちゃんと付き合っているという噂が流れたパピさんである。

「だよな! ガッハッハ!」

 あの噂は既に忘れ去られていた。きょうちゃんとは破局した、なんて噂も少しばかり流れていたし、パピさん自身も別のメイドさんを推していた。ワシも以前のことは水に流し、この時期には普通に友人として話すようになっていた。

「まぁ、かっちゃん頑張ってよ。遠くから応援してるからさ。てんさんの方は手伝ってくれるでしょ」

 てんさんはパピさんの会社の上司で、ワシとも仲良くしてくれている。普段からきょうちゃんとも仲が良いから、朝倉軍ではないけどイベントには必ず顔を出してくれていた。それも長野から遠征して駆けつけてくれるのだ。

「まったく、ありがたいもんだな」

 この時期はとにかく朝倉軍に協力してくれる人が多くいた。代わりに朝倉軍も他のメイドさんのイベントの際は参加し、全員で盛り上げることを使命としていた。異なるメイドさんを推すお客さん同士、お互いの協力があってこそ、戦国メイド喫茶は店としても発展していったのだろう。

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柴田勝家

しばた・かついえ
1987年東京生まれ。成城大学大学院文学研究科日本常民文化専攻博士課程前期修了。2014年、『ニルヤの島』で第2回ハヤカワSFコンテストの大賞を受賞し、デビュー。2018年、「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」で第49回星雲賞日本短編部門受賞。著書に『クロニスタ 戦争人類学者』、『ヒト夜の永い夢』、『アメリカン・ブッダ』など。

Twitter @qattuie

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