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推しのメイドが客とつながった?! 責任感と嫉妬で揺れた柴田勝家の苦言

マツコ・デラックスが驚愕し、神田伯山を絶句させた、異形のSF作家・柴田勝家。武将と同姓同名のペンネームを持つ彼は、編集者との打ち合わせを秋葉原で行うメイドカフェ愛好家でした。2010年代に世界で最もメイドカフェを愛した作家が放つ、渾身のアキハバラ合戦記。

前回は、新しい推し・きょうちゃんと「好きなメイドさんアンケート」のエピソードでした。
今回から、きょうちゃんがとんでもない波乱を巻き起こします……。
イラスト/ノビル
イラスト/ノビル

「なんていうか、推してて違うな、って」

 例のごとくワシは戦国メイド喫茶に通い、新たな推しの朝倉きょうちゃんと楽しくやっていたが、ここで最初の事件が起きたのだ。

『え、朝倉軍辞めるのか?』

『うん、ごめん』

 そう告げるのはなおやてんだ。ワシの友人にして、以前の推しから一緒にやってきた仲だ。そんな彼が朝倉軍を辞めるという話を聞き、LINEで事の次第を確かめたところだ。

『これからって時じゃろう。何か不都合あったのか?』

『いや、なんていうか、推してて違うな、って思っちゃってさ』

『そうか、いや気持ちを尊重しよう。推しは辞めても、これからも店で遊ぼうな』

 なおやてんが朝倉推しを辞めるのは辛いが、そういうことも多くある。お客さんとメイドの関係というのは血よりも濃いが、一方で羽根よりも軽い。明日に死ぬかもしれない戦国で生きていれば当然の境地だ。常在戦場である。

 さてしかし、ワシとなおやてんは問題なく友人を続けられるが、複雑な思いの人もいる。

「なおやてん、どうして推してくれなくなったのかな……」

 事情を聞かされた朝倉きょうちゃん本人である。

「何か悪いことしたかな……。好きじゃなくなっちゃった?」

「まぁまぁ。推す推さないは好き嫌いだけでは割り切れんものだからな」

 きょうちゃんは人から好かれたいという思いが強いらしく、その反面、他人から嫌われることに対して敏感だった。ワシからすれば、推しを辞めるオタクの姿などはメイド喫茶での日常風景だったが、まだ慣れていない彼女にとっては大変なショックらしかった。

「きょうちゃん、厳しいことを言うが、去ってしまった人のことばかり考えてはいかん。ワシやねこさん、それに他の新しい推しだっているのだからな」

「そう、だよね……」

 あんまり意識してなかったが、多分、ワシがメイド喫茶で初めて人を叱った瞬間だった。

生誕イベントは無事成功

 そんなこんなで数ヶ月が経ち、朝倉軍になってから初めての冬がやってきた。

 確かになおやてんという貴重な仲間は去ってしまったが、それでも推しの数はじわじわと増え、朝倉軍の規模も大きくなっていった。

「いよいよ生誕イベントだな」

「よっし、かっちゃん。頑張ろうぜ!」

 ワシはねこさんと二人、修行明けに続く二度目のイベントに思いを馳せていた。やることは前回と変わらず、花束や寄せ書きの色紙を用意し、当日は開店と共に席に陣取って見守り続けること。ライブがあれば我らでサイリウムをお客さん全員に配り、とにかく騒いではしゃいで盛り上げるのだ。

 というわけのイベントだが、あえて内容は割愛する。この先も生誕イベントは何度かあるし、全体的に成功だったので文字通りの言うことなし。楽しかったということだけ伝えておきたい。

 ただし、このイベントで新たに仲良くなった常連客の紹介もしておこう。何故なら、彼の存在がこの後に続く事件の中心人物になるからだ。

「いやぁ、楽しいねぇ。勝家さん」

「ああ、パピさんも愉快な人じゃな!」

 彼の名はパピさん。長野県から遠征で来ている人で、いつも飄々とした風来坊のようなメイド喫茶オタクだった。このパピさんは職場の上司である天さんという人と一緒に来ることが多かった。ちなみに天さんも話しかけやすい気楽な人で、ワシは二人揃って仲良くなったのだ。

「パピさん、きょうちゃんの次のイベントも来てくれよ」

「いいね、次は周年だっけ。じゃあ、来年の春くらい?」

「ああ、その前に来てくれても遊ぼうじゃないか!」

 などと言って、ワシはパピさんと再会を約束したのだった。

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柴田勝家

しばた・かついえ
1987年東京生まれ。成城大学大学院文学研究科日本常民文化専攻博士課程前期修了。2014年、『ニルヤの島』で第2回ハヤカワSFコンテストの大賞を受賞し、デビュー。2018年、「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」で第49回星雲賞日本短編部門受賞。著書に『クロニスタ 戦争人類学者』、『ヒト夜の永い夢』、『アメリカン・ブッダ』など。

Twitter @qattuie

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