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〝愛してる〟は使わない? 柴田勝家に訪れた寂しい時間

かおりこちゃんの卒業式を盛り上げたい

 晩秋の頃だ。真田かおりこちゃんが卒業するという一報があった。

 長らく戦国メイド喫茶を支えてくれたメイドさんであり、ワシ自身も何度も精神的な支えとなった彼女が去る。そのこと自体は悲しかったが、他の仲の良かったメイドさんや推しが卒業する時よりも、どこか穏やかな心でいられた。

「かっちゃん、発表見てくれた?」

 卒業発表後、ワシは戦国メイド喫茶でかおりこちゃんと話すタイミングがあった。

「ああ、見たとも。しかし突然という感じもしないな」

「うん、まだ仕事残ってるしね。まだまだ卒業式まで時間あるから、それまでよろしくね」

 かおりこちゃんはいつものように笑ってくれて、ワシもそれに普段のように頷く。

 ちょうど店の切り替わりの時期でもあった。新人メイドさんたちが独り立ちしていき、それぞれを推す常連さんも現れ、全員で店が上手く回り始めている。かおりこちゃんは、それを見届けたからこそ卒業するのだ、と思った。

 一方、お客さんであるワシらがするべきことは一つである。

「勝家氏ィ!」

 そう声を掛けてきたのは、以前に登場した真田かおりこ推しのコワモテ兄ちゃんのまーちゃんだ。

「りこちゃんの卒業式さァ、俺も花束とか渡したいんだけど! 勝家氏はいつもどこで買ってんの?」

「ああ、近くの花屋で予約しとるぞい。そうじゃ、一緒に買いに行こう! ワシもりこちゃんの卒業式で花束くらい渡したいしな」

「お、マジか、あざ!」

 そんなやり取りから始まり、ワシはまーちゃんと二人でかおりこちゃんの卒業式についてアレコレと話すようになった。そうなると当然、他の真田推しの人たちとも連絡を取るようになる。

「あ、いいですね、一緒に準備しましょ」

 こちらも以前に登場したワシの友人、真田推しのつばささん。細やかな配慮と親切心によって、まさにメイドファーストなイベントを演出してくれる人だ。

「もちろん、手伝いますよ!」

 とは同じく真田推しの神さん。渋いダンディさと盛り上げ上手な推し方に定評があり、何よりイベントで行われるライブなどでは欠かせない人だ。

 このまーちゃん、つばささん、神さんの三人が真田軍の中心として動くことになり、そこにワシも加わった。これまで朝倉軍でイベントを多くこなしてきたことと、ワシ自身がかおりこちゃんの卒業式を盛り上げたいと思ったからだ。

「いっちょ、卒業式を盛り上げてやろう!」

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柴田勝家

しばた・かついえ
1987年東京生まれ。成城大学大学院文学研究科日本常民文化専攻博士課程前期修了。2014年、『ニルヤの島』で第2回ハヤカワSFコンテストの大賞を受賞し、デビュー。2018年、「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」で第49回星雲賞日本短編部門受賞。著書に『クロニスタ 戦争人類学者』、『ヒト夜の永い夢』、『アメリカン・ブッダ』など。

Twitter @qattuie

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