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柴田勝家、地上波バラエティ『松之丞カレンの反省だ!』で大活躍の巻

マツコ・デラックスが驚愕し、神田伯山を絶句させた、異形のSF作家・柴田勝家。武将と同姓同名のペンネームを持つ彼は、編集者との打ち合わせを秋葉原で行うメイドカフェ愛好家でした。2010年代に世界で最もメイドカフェを愛した作家が放つ、渾身のアキハバラ合戦記。 前回、柴田さんにとって初めての推しの感動の卒業式でした。 そして今回から第二部がスタート! 時間は飛んで、柴田さんがバラエティ番組『松之丞カレンの反省だ』に出演することになったお話です。
イラスト/ノビル
イラスト/ノビル

令和へ変わる直前の事件

 最初の推しが卒業を迎えたところで、この戦国メイド喫茶エッセイも第二部へと突入する。

 今までのが柴田勝家にとっての黎明編、いわば織田信秀に仕えていた時代から信長の弟である信勝の家老だった頃だとすれば、ここから先は上洛、信長包囲網、畿内平定といった信長公に仕えてからの時代が始まる。まさに風雲編、群雄割拠する乱世の幕開けである。

 であるのだが、推しが卒業した後にいきなり次の推しの話をすると、なんとも心変わりの早い不忠者と思われかねない。なので、ここで一回、ズバっと時間を先に飛ばしてワシがとある人物と出会った時の話をしようと思う。

 平成31年(2019年)の四月末、まさに令和へ移り変わる直前の出来事だ。結論から言えば、ワシはずっと戦国メイド喫茶に通っていた。

 ただし、当時は新しい推しも作らず、もうすっかり入れ替わってしまったメイドさんたちを見守る立場になっていた。古強者、老兵、御隠居様。そんな立場となって、時に昔懐かしい友人たちと出会って過去をしのぶ。時代は変わり、あの戦場を駆け抜けた日々も遠くなったのだ。

 そんな令和直前のゴールデンウィーク、いつものように戦国メイド喫茶でのほほんと過ごしていると、見慣れぬ一団が客として訪れていた。印象的なのは、その一団は次々と別の客にインタビューのごとく話を聞いて回っていることだった。

「あの、少しよろしいですか?」

 やがて一団がワシのもとを訪れると、自分たちがテレビ局のスタッフだと名乗ってくれた。とはいえ戦国メイド喫茶に通っていると珍しいものでもなく、これまでにも何度か撮影ロケの瞬間に遭遇したことがある。

「こちらのお店には良く来られているんですか?」

「ええ、ずっと来てますね」

「ああ、良かった! すいません、実はずっと新規の方ばかりで」

 なるほど、と納得があった。それというのも、この時期は戦国メイド喫茶が人気漫画『五等分の花嫁』(講談社)とコラボ(作中キャラの中野三玖が戦国オタクなので)をしており、普段の常連は少なく、コラボ目当てのお客さんの方が多いのだ。

「できれば常連の人がいる場面を撮影したいと思ってまして、よければ出演して頂けませんか?」

 スタッフの人も大変である。まぁ、少し落ち着けば普段の常連も増えてくるから、ワシも含めて皆で戦国メイド喫茶を盛り上げてみせよう、という思いがあった。

「いいですよ」

「ありがとうございます! それで、番組は『松之丞カレンの反省だ!』っていう番組なんですけど」

 へぇー、と思った。

講談師・神田伯山との出会い

 テレビ番組『松之丞カレンの反省だ!』は人気講談師の神田伯山(撮影当時は襲名前で神田松之丞)が街にロケへ行き、その様子をスタジオの滝沢カレンと見返してはツッコミを入れるという街ブラ系バラエティだ。と、説明を入れておく。なのでここでは敬称略。

 始まったばかりの番組だったので当時のワシは知らなかったけれど、一応は「神田松之丞」という名前には覚えがあった。神田さんがテレビで紹介される時などは、伝統話芸たる講談の人気を再燃させた人物で、彼の講談がある日は満員御礼、チケットの取れない講談師などと言われていた。

 でも、だ。神田さんが秋葉原の路上で自己紹介をすると。

「僕のこと、知ってます?」

「えっと……」

 なんて反応される。これは実際のオンエアでもあったやり取りだ。残念ながら秋葉原の民はアニメや漫画のキャラなら数百人でも見分けがつくが、世間で人気の講談師の顔はわからないらしい。

 しかし、問題はここからだ。前日に戦国メイド喫茶でロケのことを聞かされたが、別にワシの方に台本なんてないし、当日の店内の様子など未知数だ。とりあえず適当に昼過ぎに秋葉原へ行って、普段通りに戦国メイド喫茶でメロンハイボールを飲んでいた。

 すると店の入り口の方が慌ただしくなり、まず照明の真っ白な光が目についた。さらに薄茶の着物姿の男性が一人、悠々と戦国メイド喫茶に入店してくる。それこそ神田さんで、まずは彼がメイド喫茶を純粋に堪能する姿がカメラに収められた。

「へぇ、このお店に通い続けると征夷大将軍って呼ばれるんですねぇ。え、今この中に将軍の方っています?」

 神田さんが店内を見回す中、ワシはそろそろと手をあげる。既に戦国メイド喫茶に通い始めて四年、将軍に就いてからも長い時が経った。別にタイトル回収のつもりはないけれど、この時には「柴田勝家、戦国メイドカフェで征夷大将軍になっていた」だ。

「あ、あちらにいらっしゃるみたいですね。お名前はなんと?」

「ワシは、柴田勝家って名前です」

「なんか、キャラ寄せてません?!」

 などと会話が始まる。この辺は自由に喋ることができ、短いながらも神田さんと話せて良かった。テレビ的にもちょうどいいくらいのネタになっただろう。そんな安心感があった。

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柴田勝家

しばた・かついえ
1987年東京生まれ。成城大学大学院文学研究科日本常民文化専攻博士課程前期修了。2014年、『ニルヤの島』で第2回ハヤカワSFコンテストの大賞を受賞し、デビュー。2018年、「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」で第49回星雲賞日本短編部門受賞。著書に『クロニスタ 戦争人類学者』、『ヒト夜の永い夢』、『アメリカン・ブッダ』など。

Twitter @qattuie

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