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柴田勝家、戦国メイドカフェで征夷大将軍になる
マツコ・デラックスが驚愕し、神田伯山を絶句させた、異形のSF作家・柴田勝家。武将と同姓同名のペンネームを持つ彼は、編集者との打ち合わせを秋葉原で行うメイドカフェ愛好家でした。2010年代に世界で最もメイドカフェを愛した作家が放つ、渾身のアキハバラ合戦記。

前回は、柴田さんが神田伯山さんと地上波で共演した際のエピソードでした。
今回語られるのは、柴田さんについに新たな推しができたお話です。

新しい推し爆誕!「God knows…」を歌う朝倉義景の娘を愛でる柴田勝家

イラスト/ノビル
イラスト/ノビル

『ラブライブ!』の矢澤にこのモノマネをする子

 時は平成二十七年(2015年)、相変わらずワシは戦国メイド喫茶に通っていた。

 最初の推しである前田きゃりんちゃんが卒業した後も、メイド喫茶でメイドさんや友人たちと会う楽しみがあった。手形(ポイントカード)は侍大将から家老へと昇格し、一時間のチャージ料も割引される身分となった。結果的に散財するのだが。

 そんな中で新たに出会ったメイドさんがいた。

「にっこにこにー!」

 店の中央で『ラブライブ!』の矢澤にこのモノマネをする子がいる。

「ちょっと、みんな無視しないでよぉ!」

 彼女は暇そうな店内を和ませようと奮闘するも、逆にどう声をかけていいのか戸惑わせていた。落ち込んだ様子でトボトボとワシのいる方へと歩いてくる。

「きょうちゃん」

「あ、勝家さん。なんか注文します?」

 彼女は朝倉きょうちゃん。朝倉義景の娘であるが、いかんせん朝倉家がマイナー寄りの大名であるため店ではイジられキャラになってしまっている新人のメイドさんだ。というか越前国で栄華を誇った朝倉家をマイナー扱いすると福井県の人に怒られるかもしれないが、そもそも朝倉家が滅んだ後に越前国を治めたのが柴田勝家(本物)だ。これは二重で怒られるかもしれない。

「いや、別にないが。まぁいいか、なんか話そう」

「え、いいんですか? やった!」

 ワシはきょうちゃんにキャストドリンク(メイドさんに飲み物をあげることで優先的に話せるシステム。当時の秋葉原では一般的だった)をあげ、いくらか話すことにした。

「そうか、きょうちゃんは妖怪が好きなのか。ワシも好きだぞ」

「あ、いいですね! 私、妖怪とかオカルトみたいな変なものが好きなんです! 楽しくないですか?」

 最初は同情心から話すことを決めた相手だったが、なかなかに趣味も合い、話していて楽しかった。一方、話している中で必死に話を合わせようとする空気も感じられ、どこか無理をしているようにも思えた。

(さっきの行動もそうだが、あえて不思議ちゃんキャラを演じているのかもしれないな。自分に自信がないからか、素を出せないで、相手にイジってもらう形で会話を続ける癖があるのか)

 なんていうことを考えていた。ワシは秋葉原に通う中でFBIばりのプロファイリングを学んでいた。とても気持ち悪いことだと思う。

(いや、やめよう。これも一方的な決めつけかもしれない。考えるのはなしだ)

 そこでワシは考えを改め、ただ楽しくきょうちゃんと話すことにしたのだった。

同志との再会

 そんなある日、ワシは戦国メイド喫茶で久々になおやてんに出会った。

「あ、かっちゃん、おつざーす。にしても、こうして城に来ても胸に穴が空いた感じっすねー」

「だよなー」

 店内の熱気から逃げ、非常階段で二人して語り合った。同じ前田きゃりん推しとして彼とは一緒に頑張ってきたが、やはり卒業式後はワシと似た気持ちを抱いているらしい。ワシらは二人とも、きゃりんちゃんと出会ったのが遅すぎたのだ。生誕イベントも一周年イベントも経験しておらず、最初に卒業式となってしまった。もっと推していたかったし、まだやりたいこともあった。メイド喫茶にハマったばかりのワシらは不完全燃焼のままだった。

「今度はメイドさんを最初から推してみたいなぁ。なんか良い感じの子いません?」

「そういう意味なら、ワシは朝倉きょうちゃんが気になってるな」

「え、マジで? 俺も!」

 思わずハイタッチした。二人できゃりんちゃんを応援してきて、また新しく推しにしたいメイドさんの好みが被っていたことが嬉しかったのだ。

「え、どうしよ! 俺らで朝倉軍作っちゃいます?」

「いいな、今度は最古参を名乗れるぞ!」

 さらに嬉しいことは、ここで新たに一人の武士が現れたことだ。

「その話、俺にも聞かせてくれよ」

 声に振り向けば、そこに寝起きの長瀬智也みたいな男が立っていた。以前にも紹介した、戦国メイド喫茶で仲良くなった友人の猫さんだった。

「猫さん!」

「俺も朝倉きょうちゃん気になってんだよね。一緒に推そうぜ」

 話を聞けば、彼もまた軍としてメイドさんを推すオタクたちの姿に憧れがあったらしい。まるで強豪校の試合を見て憧れた野球少年だ。かくして同じ情熱を持った者たちが集まって、甲子園出場を目指して野球部を設立させる。そんなストーリーが生まれていた。

「決まりだな。三人で朝倉軍の結成だ」

 ワシは早速、店内に戻ってこれから推すことを朝倉きょうちゃんに伝えようとした。以前と同じようにキャストドリンクをあげて席に呼び出す。

「きょうちゃん、前にきゃりんちゃんの卒業式であんな風になりたいって言ってたな。だったら叶えよう、一緒に戦国メイド喫茶のトップになるんだ」

「え、それって、勝家さんが私を推してくれるってこと、ですか?」

「ああ、そのつもりだ」

「あ、あのあの、本当に私なんかでいいの? もっと凄い人いっぱいいるのに」

 不安そうなきょうちゃんに向かって力強く頷くと、今度は嬉しそうに顔をほころばせた。

「や、やった! 嬉しい! 私、頑張りますから!」

 楽しそうに店内を駆け回る朝倉きょうちゃん。続けてなおやてんと猫さんも彼女を推しとしたことを伝えるだろう。一度に三人もの人が推すことになれば、きっと彼女も自信を持ってくれるはずだ。

「私、きゃりんさんが憧れなんです。絶対、きゃりんさんみたいな立派なメイドさんになりますね!」

「ああ、期待してるぞ」

 思い返せば、前田きゃりんちゃんは常に自信たっぷりなメイドさんでキャラを作ることなんて無かった。逆に朝倉きょうちゃんは自信がないからキャラを作って人と接していた。だからこそ憧れるものもあるのだろう。

 そして、それはワシも同じことだ。ワシは柴田勝家というキャラで長く過ごしてきたから、いつも素で接してくれるきゃりんちゃんを好きになったのだ。そういう意味では、ワシはきょうちゃんに共感していたのかもしれない。

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柴田勝家

しばた・かついえ
1987年東京生まれ。成城大学大学院文学研究科日本常民文化専攻博士課程前期修了。2014年、『ニルヤの島』で第2回ハヤカワSFコンテストの大賞を受賞し、デビュー。2018年、「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」で第49回星雲賞日本短編部門受賞。著書に『クロニスタ 戦争人類学者』、『ヒト夜の永い夢』、『アメリカン・ブッダ』など。

Twitter @qattuie

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