2026.6.25
隠蔽された真相を暴く! 国際社会を揺るがした“あの事件”に挑むネット探偵たち
警察よりも早く暗殺未遂事件の実行犯を特定
マレーシア航空17便墜落事件の真相究明は、大きな反響をもたらした。エリオットは世界各地で講演を依頼されたりワークショップを開くようになり、企業や篤志家から寄付が寄せられるようにもなって、べリングキャットは熱心な協力者たちをスタッフとして雇用できるようになったのだ。
墜落事件の後もさまざまな国際的事件や疑惑を追及していたベリングキャットをさらに有名にしたのは、2018年3月、イギリスの都市ソールズベリーで起きた暗殺未遂事件だ。ロシアから派遣されたふたりの工作員が、ソールズベリーに住んでいたロシアの元将校を毒ガス「ノビチョク」で暗殺しようとし、元将校と娘が重傷を負った事件である。
ベリングキャットはイギリスの警察が公開したふたりの容疑者の画像から、調査に取り掛かる。基本的なアプローチは同じだ。膨大なデータの海のなかに潜り込み、埋もれていた情報を掬い上げ、選り分ける。このケースでは、ロシアで腐敗を暴く活動をしているニュースサイトと緊密に連携。事件から半年後、警察よりも早く暗殺未遂事件の実行犯を特定することに成功するのだ。
それがどれだけとんでもないことか、想像してみてほしい。ロシアの工作員は、国からの命令を受けている。当然、防犯カメラに捉えられたところで真相にたどり着けないよう身分も厳重に偽装されている。一般市民であるネット探偵たちがその分厚い防御壁を突破したのだ。
その結果、ロシアの政府関係者や政府御用達のメディアから、ベリングキャットへの誹謗中傷が始まる。これは、ロシアにおいて国家レベルの脅威として認められた証だろう。エリオットは「特定の国々に足を踏み入れるつもりはない――どの国かは言わなくてもわかってもらえるだろう」と記している。
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活躍の場を広げるベリングキャット
ベリングキャットの登場は、メディアの取材の在り方にも一石を投じた。従来、メディアは記者が現場で取材を重ねることで、情報を得てきた。ベリングキャットのオープンソース調査は、その手法を遥かに上回るスピードで真相にたどり着く。
その価値に気づいたニューヨーク・タイムズやイギリスの公共放送BBCは、元ベリングキャットのメンバーや協力者を雇い入れ、オープンソースの調査班を設置。ベリングキャットとも協力関係にあり、すでにいくつもの国際的な賞を受賞している。
本書が発売されたのは、2022年3月。その時点で従業員25名、営業責任者、データ科学者、管理の専門家も雇用する組織となったと記されていた。それから4年が過ぎた現在、約40人の専属スタッフを抱えるようになったベリングキャットは、冒頭に記したように今も変わらず存在感を発揮している。
ひとりのネット探偵が始めた活動が、10年ほどで不都合な真実を隠す国家と対峙し、大手メディアの報道にまで影響を及ぼすようになった。その詳細な記録が、本書である。
オープンソースの情報から次々と真相を暴いてゆく展開は、まさに痛快。一方で危うい綱渡りをしているような緊迫感もあり、特にロシアの暗殺者を追い詰めていくパートは映画やドラマになりそうな迫力がある。
ベリングキャットは、オープンソース調査の手法を世に広く伝えるため、衛星写真地図や動画検証、航空機追跡サイトなどベリングキャットが実際の調査で使用するサイトのリンクを集めた「ネット調査ツール」を公開し、市民レベルで活用できるようにしているという。
かじりつくようにページをめくった僕は、読了後に思った。日本にも、人物写真の瞳に映った風景からその人の居場所を突き止めることができるようなネット探偵がいると聞く。その類まれな才能を活かす場として、ベリングキャットに加わってはいかがでしょう? 個人情報を暴くことに躍起になるより、よほど社会の役に立てることは間違いない。
次回取り上げるのは、『未解決殺人クラブ~市民探偵たちの執念と正義の実録集』(著:ニコラ・ストウ、訳:村井理子/大和書房)。主人公は、アメリカで実際に起きた事件を解決に導いた市民探偵たちだ。
前回取り上げた『n番部屋を燃やし尽くせ デジタル性犯罪を追跡した「わたしたち」の記録』の著者である追跡団火花、ベリングキャットのネット探偵たちに連なる、名もなき市民の底力をお伝えする。
次回は7/23(木)公開予定です。
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