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デモデモダッテが止まらない【逃げる技術!第4回】DVによる思い込みって?

子どもの意向を確認するむずかしさ

家を出るべきかどうか、自分ひとりであっても決断は大変だと思いますが、子どもがいるとまた別の難しさがあります。子ども本人の意思をどう確かめるか、という問題です。

子どもは気持ちも変わりやすいものですし、質問の仕方によっても答えが変わります。そもそもわたしの意思で子どもから父親を奪うようなことになっていいのだろうか? こんな選択肢を示すこと自体、子どもを傷つけることになるのでは? 尋ねながらも大人のこちらが誘導してしまっていないか? とてもこわいですし、迷いました。

わたしは区役所での初回相談のあと、夫との離婚協議をある女性弁護士に委任(契約して相手とやりとりしてもらうこと)しましたが、同時に、セカンドオピニオンとして他の複数の弁護士さんにも相談しました。

その中のひとりが話してくださったのが「子どもが小さいうちは何が子どもの最善なのか確認することが難しい。だからこそ慎重に」というアドバイスです。正解の見えない悩みだからこそ、複数の専門家のアセスメント(評価)を受けるよう意識しました。

Tips 19
できれば複数の専門家に相談するのがおすすめです。

モラハラ生活は、デモデモダッテをつくりだす

実は区役所で「早く別居を」といわれた時点では、わたしはまだまだ「デモデモダッテちゃん」でした。相談員さんと向かい合いながらも、頭の中では

「えーっと、確かにこの人のいう通り、やっぱりうちの夫は大変な人だったようだわ。だってわたしも正直いって嫌だもの、一緒にいるだけで身体が緊張する。ガッチガチ。まあ、だから離れたほうがいいっていうのは真実なんだろうけれど、いやいやでもそんなのこれまで何度も『こういうのはやめて』『離婚したい』って伝えてきてその度に拒否されてダメになって、そしたらさらにひどい扱いを受けるようになって、逃げようとしたことすらバカにされて謝罪させられて。っていうのを繰り返して、結局いまに至るんだもの。無理じゃない? しかもいまはわたしひとりじゃなくって、小さな子どもがふたりいて。はたして逃げるなんて物理的に可能なの? 子連れじゃ帰省で新幹線に乗るのだって大変なのに。だいたい小学校と幼稚園はどうするの? うわー、これ、夫にバレたらこわいな。こっぴどく叱られる。計画立てただけでめちゃくちゃ叱られるやつだ。もう絶対に何年もずっと叱られ続けるよ。また革のベルトで叩かれるかもしれない。きっと抗うつ剤も処方量超えてたくさん飲まされるんだろうな。毎日毎日きっと死ぬまでいわれるんだろう。『ハァー? こんなにいい旦那さんに恵まれて幸せ者なのに、その恩を忘れてよくも逃げようとしたよね〜。一生かけてどうやって償ってもらおうかな〜』って。らんらんとした見下ろす目つき、絡みつく声音、ニヤリと上がった口角。うわー、ありありと目の前に浮かぶ。あああ、どうしようー。でもやっぱり逃げたい。このまま年とって死ぬなんて、わたしの人生なんだったんだろう。むなしい。灰色だ。でも逃げるなんてきっとできない」

と、まだそんなことをぐるぐると考えていたのです。
とんでもないデモデモダッテです。三十六計逃げるに如かず、と孫子もいっているというのに。

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藤井セイラ

編集者、エッセイスト。2児の母。東京大学文学部卒業後、広告・出版を経てフリーに。子育てに関連する勉強が好きで、気がつけば、保育士、学芸員、幼保英検1級、絵本専門士、小学校英語指導者資格、日本語教師、ファイナンシャルプランナー2級など、さまざまな資格を取得。趣味はマンガとボードゲーム。苦手なものはお寿司。最近、映画館で観たのはプリキュア。

X(ツイッター) @cobta https://twitter.com/cobta

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