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デモデモダッテが止まらない【逃げる技術!第4回】DVによる思い込みって?

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逃げて連れ戻されるとDVはエスカレート。その記憶が逃走を阻む

当時のわたしの思考はまさに堂々めぐりでした。

逃げたい…‥、そりゃ、逃げられるものなら逃げたいよ? と思いながらも、同時に、逃げたら叱られる、叱られるから逃げるなんて不可能だ、と強く強く信じ込んでいました。

これって矛盾しています。逃げた先に夫はいないから叱られるはずありません。でも、毎日ずっと叱られつづけてきたせいで「夫に叱られている自己像」しかイメージできないのです(いま、似たようなことを子どもに対してやってしまわないように気をつけよう! と心に留めて暮らしています)。

振り返って考えてみると、家出をして連れ戻されると、最初の1、2週間はやさしくお客さま扱いされますが(またいずれ書きますが、DVにおける「ハネムーン期」というものです)そのあとはまたスイッチが入って、逃亡を罰する意味合いも込めていっそうひどい扱いを受けるようになります。過去に何度も経験があったので、たやすく想像がつきました。

虐待やいじめのニュースで「相談したらもっとやられると思って、いえなかった」というフレーズ、聞いたことはありませんか? DVやモラハラもおなじで、「逃げたら/人に話したら、もっと事態が悪化するだろう」とされた側は思い込んでしまいがち。この思い込みこそが、精神的な檻のような役割を果たします。

Tips 20
DV被害者は「逃げたらもっとひどい目に」と思い込みがち。「おや?」と思う場面を見たら、やさしく相談窓口をすすめて。本人は強く否定するかもしれませんが、無理せず、時間を置いて話してみてください。

妹に赤ちゃんが生まれても会えなかった

いまふり返ってみると、おいおい子どもかよ……、大人なんだからしっかりしろ! と思うのですが、DV生活を何年も続けると人格も変わってきます。叱責され続けると、認知能力も判断力も下がります。

家出して2、3ヶ月が経った頃、10年ぶりにかつての友人たちと再会できたときには、会話の中でうまく言葉が出てこず、質問をされてしどろもどろになってしまい「えーっ、セイラちゃん、そんなキャラだったっけ?」と笑われてしまったくらいです。

友人、知人はもちろんのこと、都内に住むきょうだいにも何年も会えていませんでした。妹に赤ちゃんが生まれても会いにいけません。弟が「家を買ったならお祝いにいきたい」といってくれても断るしかありません。どちらも夫の許可が下りないからです。おなじ東京23区内に住んでいるのに、です。その孤独と異常性にもわたしは気がついていませんでした。

このことに思い至ったのも、相談員さんと面談をしていた最中です。モラハラやDVはしばしば被害者の自覚なく進行します。

「社会的隔離」という名のDV

このように外出を許されない、友人や親族に会わせてもらえないといったことは「社会的隔離」「社会的DV」と呼ばれます。しかし、渦中にいた自分はまったくその概念を知りませんでした。

テレビも幼児向け番組以外はあまり観ることもなく、書店にいく機会もなかったため、新しい知識を得るチャンスも少ないのです。せめてNHK「あさイチ」くらいの朝の情報番組でも見ていたら違ったかもしれません。あさイチは少なくとも2015年からモラハラ特集を時折やっていたはずです。

もともと大学では文学部を選ぶほど本を読むことが好きでしたが、10年以上、本を読んでも目がすべって頭に入ってこなくなっていました。これはうつ病の症状の一種だったと思います。もう6年お世話になっている精神科の主治医には、「そういう(DVのある)暮らしをしてたらね、そりゃあうつにもなると思うよ〜」といわれました。

また、SNSの利用も最後の3年ほどは原則禁止とされていました。

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藤井セイラ

編集者、エッセイスト。2児の母。東京大学文学部卒業後、広告・出版を経てフリーに。子育てに関連する勉強が好きで、気がつけば、保育士、学芸員、幼保英検1級、絵本専門士、小学校英語指導者資格、日本語教師、ファイナンシャルプランナー2級など、さまざまな資格を取得。趣味はマンガとボードゲーム。苦手なものはお寿司。最近、映画館で観たのはプリキュア。

X(ツイッター) @cobta https://twitter.com/cobta

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