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殴る蹴るだけがDVじゃない【逃げる技術!第2回】あなたの周りにも隠れ被害者はいませんか?

DVは、人目を忍んで、巧妙に行われます

加害者が、自分よりも強い立場の人間のいる空間や、自分の評判が落ちるような可能性のある場面でDVを働くことは珍しいといえます。それは巧妙に隠され、長く続き、その結果、エスカレートしていくリスクを秘めています。

わたしは夫の実家に帰省するのが好きでした。というのは、義実家に帰省しているあいだは、夫は絶対にわたしを「雌豚」「下僕」「ポンコツ」などと呼んだり、粗末に扱ったりはしなかったからです。また、いつものように突然、ひどく機嫌を損ねたり、わたしのことを長時間(時に1週間以上)にわたって無視したりするようなことも絶対に起こらないのでした。

ですから義実家への帰省中は安心・安全だったのです。わたしは「義実家に帰っている間だけ、夫はまともになるなぁ」と感じていました。わたしはその「許された時間」が好きでした。

いまになるとそのメカニズムを理解できるのですが、おそらく義実家には「義両親」という夫よりも「上位の存在」があり、また弟夫婦などの人目もあったために、夫はそこにいる間、「まとも」に振る舞わなくてはいけなかったのでしょう。

当時のわたしはそのことには気づいておらず、「ああ、普段から帰省中のようにまともでいてくれたら、どんなに幸せだろう。まるで付き合い始めの頃のようにまともだわ。なつかしい」と夫の実家に帰るたびに思っていました。

しかし、その「まともさ」はごく瞬間的なものでした。2、3日の短い滞在を終えて義両親に手を振って「さようなら」をし、東京へ向かう新幹線に乗り込んだ瞬間、夫の目つきはさっと冷たくなり、トカゲのようなそれに変わり、態度も元に戻ります。

キオスクで買い込んだビールをプシュッと開け、乱暴な顔つきになります。外を歩くときには後ろからわたしの靴を蹴って小突くようにする、通常運行になるのです。

Tips 2
DVの特徴のひとつに、多くの場合、閉鎖空間で行われるということが挙げられます。
それがDVの発見を遅らせます。

「DVを受けています」と相談しにくい理由

これまで、悲惨ないじめ事件のニュースをテレビや新聞、ネットで目にしたことはありませんか? 大変にいたわしいことですが、クラスメイトから継続的に「死ね」「バカ」「学校来るな」などといわれて自死を選んだ子どもが、これまでに幾人もいたでしょう。

モラハラもそれと同じ。たとえ言葉だけの暴力であっても、人は命を落としてしまうことがある、とわたしは考えます。

あとに残された人は「相談すればよかったのに」「早くいってくれたら」というかもしれません。でも、いじめられていると告白するのは、とてもつらいことです。なぜならそれを説明するには「わたしは普段、このような粗末な扱いを受けています」と言語化しなくてはいけないからです。

ひとたびそれを口にすると、まるで「わたしはこのような粗末な扱いにふさわしい、価値がない人間なのです」と認めているような、みじめな気持ちにさせられます。実際には悪意ある行為を繰り返す人間が悪いのであって、被害者に落ち度はないのですが。

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新刊紹介

藤井セイラ

編集者、エッセイスト。2児の母。東京大学文学部卒業後、広告・出版を経てフリーに。子育てに関連する勉強が好きで、気がつけば、保育士、学芸員、幼保英検1級、絵本専門士、小学校英語指導者資格、日本語教師、ファイナンシャルプランナー2級など、さまざまな資格を取得。趣味はマンガとボードゲーム。苦手なものはお寿司。最近、映画館で観たのはプリキュア。

X(ツイッター) @cobta https://twitter.com/cobta

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