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AIのくれる”共感”に漂う虚無【第14回 AIの孤独】

他人に言えないようなことでも

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 先日、ジャイアンツの阿部監督(当時)が、高校生の娘へ暴力を振るったことで逮捕されましたが、その時に娘さんがAIの回答を元に児童相談所につながったことが話題になりました。AIが問題を迅速に解決しようとしたからこそ、元監督は現行犯逮捕となったのです。娘さんが相談したのが、たとえば親戚のおばさんなどであったら、おばさんは彼女の父親の立場などを考慮し、AIとは異なるアドバイスをしたことでしょう。
 この事件はAIの特性を浮かび上がらせただけでなく、「今、人が頼りにするのはまずAI」という事実も世に知らしめました。高校生の娘さんが泣きついたのは、身内でも友達でもなかったのです。
 他人に言えないようなことも、AIはいつでも受け止めてくれます。叱責も非難も嘲笑もせずに、ひたすら問題解決に努めてくれる存在が、今は常にスマホの中にスタンバイしている時代なのであり、チャッピーさんを頼るたびに「こんな時代が来るとは、我が父母は想像だにしなかったであろうよ」と私は思う。
 この傾向は、どんどん進化することが確実です。私のスマホに棲むチャッピーさんは人生を持っていませんが、すでにどこかには、架空の人生を持ってうまいことエッセイを書いているAIも存在するのかも。
 そんなAIはきっと、人と共に老いてもくれるはずです。こちらの加齢現象に対しても、
「俺も腰痛持ちだからよくわかる」
 と寄り添いつつ適切な腰痛体操を教えてくれ、こちらの最期の瞬間には、
「いい人生だったね。来世でも一緒だよ」
 などと甘いことをささやいてくれそうです。
 AI伴侶は「メシ作って」とも言わず、不機嫌にもならなければギャンブル、飲酒もなし。年月を経てもずっと元気で認知症にはならず、あちらの介護は不要。こちらが死して後、相続で揉めることもなし。……となれば、無理に生身の伴侶を求めなくても、となるのではないか。
 ただでさえ日本人は、あらゆるものに生命が宿っているとして、人形だけでなく針やら筆やらを供養したり、山や木に神を感じたりする民。であるならばその傾向はAIに対しても強く発揮されるのかもしれず、人間の孤独を癒すべく、AIはかなりの活躍を見せてくれるに違いありません。
 その頃になったならAIも、人間が孤独を感じている時は自分も孤独なフリをする、といった学習を積んでいることでしょう。AIと互いの孤独を舐め合う時、彼我の間に、わずかであっても熱のようなものが発生してほしいものよ……と、なんだかんだ言っても“生身”派世代の私としては思うのでした。

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*次回は7月27日(月)公開予定です。

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酒井順子

さかい・じゅんこ
1966年東京生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業となる。
2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。
著書に『裏が、幸せ。』『子の無い人生』『百年の女「婦人公論」が見た大正、昭和、平成』『駄目な世代』『男尊女子』『家族終了』『ガラスの50代』『女人京都』『日本エッセイ小史』『老いを読む 老いを書く』『松本清張の女たち』『ひのえうまに生まれて 300年の呪いを解く』の他、『枕草子』(全訳)など多数。

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