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頭のいい人は寂しい【第13回 相談できないトップオブトップ】

いかにひとりぼっちであるか

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 そんな私ですので、大谷翔平選手であれ企業の社長であれ、努力を重ねてトップにたどり着いた人の強さには、畏怖のようなものを感じます。対して、頂点に立つ人でありながら、社長や大谷翔平選手とは全く異なる孤独を味わわなくてはならない立場もある気がするのであり、それが「天皇」です。
 日本で一番偉い人、とされている天皇陛下。日本に身分差はないそうですが、天皇をトップとする皇室の方々を、我々は仰ぎ見ています。女性差別にはぷりぷりするタイプの私も、国技館に天皇皇后両陛下がいらした時は気がつけば必死に手を振っていたのであり、その時の私は確かに、彼我の「差」を楽しんでいました。
 天皇という立場は、社長とは異なり、組織の下から這い上がって就くものではありません。その家にたまたま男子として生まれれば、なりたくてもなりたくなくても、なってしまう立場。
 たとえ望んでいなかったとしても、自動的に国の象徴になるというその立場がいかにひとりぽっちであるかを思うと、私は暗然とした気持ちになります。
 世の社長達にしても、総理大臣のような人にしても、トップに立つ人の多くは、自らが望んでその地位を得ています。組織の中では孤独でも、社長であれば経団連で社長仲間と交友したり、総理大臣であれば総理OBと話したりして、その立場ならではの苦労を分かち合うことができましょう。
 対して天皇は、生まれた時から将来が決まっており、子供の頃から常に、清く正しい行動を取らなくてはなりません。深夜にコンビニに行く自由も、おそらくは引きこもる自由もないにもかかわらず、その苦労を打ち明け合う仲間はいないのです。
 海外の王室ではしばしば、様々なスキャンダルが発生しています。昨今ではイギリス・チャールズ国王の弟であるアンドルー元王子とエプスタイン氏との関係が明るみに出てから「王子」の称号が剝奪されたり、公務上の不正行為で逮捕されたりという衝撃的な出来事がありました。兄のチャールズ国王にしても、かつては離婚問題など、世界を揺るがすスキャンダルを巻き起こしたものです。
 その手のスキャンダルを目にすると、王室メンバーであることのストレスの強さを感じるのですが、しかし日本の皇室メンバーに、その手の派手なスキャンダルはほとんどありません。秋篠宮家の眞子さん問題の時は世が沸騰しましたが、イギリス王室に比べれば、結婚相手の母親の金銭問題など、どうということもないものです。
 となるとますます、皇室の方々、特に天皇陛下がそのストレスをどのように解消されておられるのか、青人草としては心配になってくるのでした。様々な差別をなくそうという動きが強まり、世の中がフラットになっている今、それでも突出した存在であり続けなくてはならないという特異性は、身分制度がある時代よりもさらに強い孤独感を天皇にもたらしてはいまいか。
 はるか昔の息吹をたった一人で今に伝える天皇陛下を支える皇族の数も、おぼつかなくなってきた今。下々の我々が芸能人を見た感覚でキャーキャー言ったり、あることないこと噂話をしたりするのは、上つ方の立場をさらに孤独なものにする行為なのかも。「頂点の孤独」を知らない者としては、その姿を静かに見守るしかないのでした。

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*次回は6月22日(月)公開予定です。

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新刊紹介

酒井順子

さかい・じゅんこ
1966年東京生まれ。高校在学中から雑誌にコラムを発表。大学卒業後、広告会社勤務を経て執筆専業となる。
2004年『負け犬の遠吠え』で婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞。
著書に『裏が、幸せ。』『子の無い人生』『百年の女「婦人公論」が見た大正、昭和、平成』『駄目な世代』『男尊女子』『家族終了』『ガラスの50代』『女人京都』『日本エッセイ小史』『老いを読む 老いを書く』『松本清張の女たち』『ひのえうまに生まれて 300年の呪いを解く』の他、『枕草子』(全訳)など多数。

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