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「おじさん構文」は送り手と受け手の関係性から生まれる【こんな質問が来る 第10回】

社会学者の中井治郎さんが運用する「ジロウ」というX(旧Twitter)のアカウントには、匿名で質問を投稿できるウェブサービスを通して毎日50個以上の質問が届く。
ジロウがXに返答やリアクションを載せると、たびたびSNS上での「バズ」や時に「炎上」が起きる……

前回は、映画等のオススメ作品についての質問を取り上げました。
今回のテーマは「おじさん構文」です。人はなぜ「おじさん構文」を使ってしまうのでしょうか?
イラスト/みやままひろ
イラスト/みやままひろ

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おじさん構文は他人事ではない

 たとえば、こんな質問が来る。

「職場でバイト君に宛てたメモがおもいっきりおばさん構文で、なんかごめんねの気持ちでいっぱいになりました。なんかごめんネ!」

 僕の質問箱では、いつも誰が幸せになるのかわからない話ばかりしているが、人間というのはよせばいいのに、わざわざかさぶたをはがしたくなる生き物なのだ。今回もまさに、読んでいて思わず強く目をつむってしまうようなお便りである。中年の繊細な自意識は可笑しくて悲しくて、いつだって他人事ではない。

 さて、気を引き締めて慎重に筆を進めよう。一般にある程度の年齢の人間がそれなりに距離のある若い人に送るメッセージに特徴があるとして、いつからかそれが「おじさん構文」と呼ばれるようになった。特徴としては絵文字や記号、語尾の「!」や「~」などの多用。さらにとにかく饒舌であり、相手への気遣いの言葉を散りばめながら自分の要求と期待をまわりくどく伝える言葉がズラズラと並んでいる。……きっとまだまだ特徴は列挙できるのだろうが、もう、これくらいでいいでしょう。僕が限界だ。

 まず世間ではそれが中年男性特有の文体として取り立てられ、「おじさん構文」と呼ばれたわけだが、ほどなく中年女性も似たような特徴を持つ文章を送っていることが報告されるようになった。いわゆる「おばさん構文」である。もちろん細部に目を配れば、「おじさん構文」との相違も拾い出せるが、二者は驚くほど似た手触りをもっており、自分が送ったメッセージを見て「まるで、おじさんだ」と頭を抱える女性も多く、やはり共通する構造に根差していることが考えられる。

 今回は、便宜上これを「おじさん構文」問題として、その構造を考えていきたい。

 質問箱をさらってみると、「おじさん構文って、全く異なる背景のおぢがそれぞれ書いているはずなのになぜこうも似通って来るのでしょうか」という疑問もあれば、一方で「質問されると情報を並べ立てるクセがあって…ひかれてないといいんですが…女性同士でもおじさん構文みたいになっちゃう!」というような悲鳴も見つかる。

「おじさん構文」の型のようなものが共有され、キモがられたり嘲笑されたり、仲間内で真似して遊んだりされつつも、一方で単純に他者化されるだけでなく、「私も他人事ではないかも……」という冷や冷や感を持たれているテーマであることがわかる。

 僕の質問箱にやってくるお便りとしては、冒頭のように、自分が若い人に気を遣いながら送った文章が、気づけばまるで「おじさん(おばさん)構文」のようになっていたと驚く女性が多い。やはり、自分とは遠くかけ離れた人たち(つまり、「おじさん」)のものだと思っていた文体が自分自身から出力されてきたという事態はインパクトのある出来事なのだろう。そもそも、おじさんはあまり自分のおじさん構文を反省しないので、質問箱に送ってこないのかもしれない。

 いずれにせよ、年齢や性別を問わず多くの人が日常生活の端々で感じる違和感のひとつなのだろう。そして、このようなお便りをよくよく見ていると、これは個人の資質ではなく、送り手と受け手の関係性によって出力されるものであり、個人のハンドリングでそれに抗うのはかなり厄介なのではないかと思うようになってきた。

 知っている。自分でも気づいている。
 しかし、どうしても避けられないのだ。おじさん構文を。

 わが自意識の機微はどのようなものかと振り返ってみると、そこに不安があることが分かる。たとえば、こんな感じだ。おじさん構文にはなりたくないけど、実際に自分がおじさんであることは如何ともしがたい。そのため「ずっと年上の人間から送られてきた文面が無愛想だと威圧感を覚えてしまうかもしれない……」という危惧のあまり、「了解」だけで済ませることができず、つい「了解〜」と送ってしまう。そんな、美学と不安のぎりぎりのせめぎ合いのなかでいつも足掻いている。それでも「スタンプくらい送っておいた方がよかったのかな……」などと、もじもじしながら心を痛める日々である。

 つまり、「怖くないかな」「嫌われないかな」という不安に保険をかければかけるほど、おじさん構文の濃度が高まっていくのである。実に皮肉なことに、安心を得ようと守りに入れば入るほど、おじさん構文はこってりと、とろみを増し、ギラギラと輝きを放つ。

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中井治郎

(なかい・じろう)
1977年、大阪府生まれ。社会学者。龍谷大学社会学部卒業、同大学院博士課程単位取得退学。著書に『パンクする京都』『観光は滅びない』『日本のふしぎな夫婦同姓』がある。

X(旧Twitter)@jiro6663

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