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システムエンジニアを退職して新宿ゴールデン街の〈プチ文壇バー〉で働き始めたら人生が激変した

新進気鋭の風俗ライターとして、タモリ倶楽部にも出演した山下素童さん。その類まれな観察眼と描写力から生まれる文章の熱狂的なファンは多いです。
そんな山下さんの初連載の舞台は、いま新しいお店・若いお客さんが増えているという「新宿ゴールデン街」。

前回は、SNSのメッセージをきっかけにゴールデン街で出会った女性とのエピソードでした。
今回は新年特別編として、2022年のゴールデン街での出来事を山下さんが振り返ります。

どうして先行き不安な30歳になってしまったのか

皆さん、2022年はどんな年でしたか? 僕は、新宿のゴールデン街という街で頻繁にお酒を飲むようになり、いつの間にか本職だったシステムエンジニアをやめて、ゴールデン街の『月に吠える』というプチ文壇バーで金曜日の24時から朝まで週に1回店番をするだけの、先行き不安な30歳になった年でした。

どうして先行き不安な30歳になってしまったのかを、つらつらと書き綴っていこうと思います。

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2021年の年末。それまで同棲していた彼女との関係を解消して、新宿区の大久保というところに引越しをした。今から思えば心寂しかったのかもしれない、それまで飲み屋でお酒を飲む習慣なんてなかったのに、年明け辺りからゴールデン街によく飲みに行くようになった。

以前から何度か足を踏み入れたことがあったけど、通ってみて改めてゴールデン街という街は不思議な街だと思った。店番の人や、たまたま一緒にカウンターに座った知らない誰かと話すのが当たり前な街なのである。いわゆる”コミュニケーション力”がある人が飲んでいるというわけではないのに、この街には偶然出くわした知らない人と平気で会話をできる人がいっぱいいる。

店番の人にあまりプロフェッショナリズムを感じることがないのも特徴的だ。週に数回だけ店番に入ってるだけの人も多く、お酒を頼んだらお酒の作り方の紙を見ながら作る人もいるし、会計をたびたび間違える人もいるし、店番中に泥酔して潰れて会計不可能になる人もいる。けど、そんな粗雑さを非難するお客さんもいない。全ての店がそうというわけではないけれど、アマチュアリズムのようなものがゴールデン街には確かに存在している。直木賞作家でゴールデン街の常連だった田中小実昌は、1976年にゴールデン街のことを次のように評している。

銀座などと違って、この街の店はシロウトでもやれるという不思議さがあります。

(「若者文化発祥の地 「新宿ゴールデン街」の青春群像 」週刊現代. 18(12);1976・3・25 p.72~79)

少なくとも50年近く前からシロウトでも働ける街であったようなので、アマチュアリズムはゴールデン街に根付く価値観の1つと言えるだろう。この街でなら、大して喋るのが得意でもなく、お酒の作り方もよくわかっていない自分でも働けるのではないかと思った。というわけで、僕も店番をやってみようと思った。せっかく、ゴールデン街をテーマにしたWeb連載も始めることだし。

記事が続きます

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山下素童

1992年生まれ。現在は無職。著書に『昼休み、またピンクサロンに走り出していた』『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』。

Twitter@sirotodotei

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