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AV監督・二村ヒトシにゴールデン街で恋愛相談「二村さんって、なんでキモチワルいのにモテるんだろう?」

2023年7月26日に、本連載を書籍化した『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』が発売します!

新進気鋭のライターとして、タモリ倶楽部にも出演した山下素童さん。その類まれな観察眼と描写力から生まれる文章の熱狂的なファンは多いです。
そんな山下さんの新作の舞台は、いま新しいお店・若いお客さんが増えているという「新宿ゴールデン街」。

前回は、「人見知り克服養成所」で知り合った役者の米澤成美さんとのエピソードでした。
今回は、AV監督の二村ヒトシさん及び、二村さんの著書『全てはモテるためである』について山下さんが綴ります。

作家とゴールデン街

ゴールデン街では作家が酒を飲んでいる。そんなイメージがつくられはじめたのは、1958年に売春防止法が施行されて非合法の売春地帯だったゴールデン街が飲食店に変わりはじめた1960年以降で、1975年にゴールデン街の常連である中上健次が芥川賞を、佐木隆三が直木賞を受賞すると、ゴールデン街と言えば作家、作家といえばゴールデン街、というイメージが頂点に達したようだ。一流の作家であればゴールデン街に一つや二つは常連の店をつくっておくべきだ、なんてことがメディア上で囃し立てられたのはその時期だ。

それから半世紀近くが経った2020年代の今となっては、第一線で活躍する芥川賞作家が断酒エッセイを書いて売れるような時代だから、作家であればゴールデン街に常連の店を持つべきだ、なんてことが言われる時代はもうやってこないとは思う。しかし、今でも作家に好まれる街の一つとしてゴールデン街が存在しているのも事実である。

ゴールデン街で飲みはじめてから、もしかしたら自分もだれか作家に会えるのかもしれない、と漠然と思っていた。実際に飲み歩いてみると、けっこう有名な作家がそこら辺で飲んでいたりするのだけど、編集者に連れてこられたり、東京観光の一環であったりで、ゴールデン街に常連の店を持っているような作家は今の時代はやはり少ない。ゴールデン街に常連の店を持っていて、本人がいないとこでも飲みの場で話題にあがってくる作家と言えば、僕にとってはAV監督で作家である二村ヒトシさんだった。

というのにも少しからくりがあって、僕が『昼休み、またピンクサロンに走り出していた』なんていう性風俗エッセイ本なんかを出版しているような人間だから、ゴールデン街で飲んでいても、性風俗がどうだとか、セックスがどうだとか、モテるモテないがどうだとか、そういった話が盛り上がるところで飲んでいる傾向にあり、そんなとき、二村ヒトシの名前が挙がることがあるのだ。

「自分のことを非モテっていう男の人って、他人の言うことに耳を貸さなくないですか?」

ある日。ゴールデン街で飲んでいたら、カウンターの左隣に座っていた20代ほどの若い女性が、そんな問いを発したことがあった。すると、右隣に座っていた自称編集者の30歳ほどの男が、

「あの、面白いモテ指南本があるんですけど。AV監督の二村ヒトシさんという方がいまして、『すべてはモテるためである』というタイトルの本を出されてるんですけど。モテない男がなんでモテないかと言うと、自意識が強すぎてキモチワルいからということが書かれていて。モテない男って、自意識が強すぎて自分の世界に閉じこもっちゃってるから、他人の話が耳に入ってこないんですよ。二村さんは、モテない男はいかに自分がキモチワルいかをまず自覚することが大切だ、とおっしゃっていて」

なんてことを言いはじめた。僕も大学生のころ、二村さんの『すべてはモテるためである』を読んだことがあったし、自分の本を出版したときに二村さんと一緒にロフトプラスワンでイベントをしたこともあったけど、自分もその話に詳しいですよアピールは往々にして他人の会話の邪魔になるので、黙って話を聞くことにした。

「え、AV監督の方でそんな本を書かれてる人がいるんですか」

左隣に座っていた女性がその話に食いつくと、

「二村さんは女性向けにも『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』という本も出していて、その本によると、人間には誰しも心の穴があって、その心の穴は埋められるものではないのに他人を使って埋めようとするから、愛してくれない人のことを好きになってしまうんだ、みたいなことが書かれているんです」

と、右隣の男。

「えっ、やばい、やばい!なんかめっちゃ思い当たる節があるんですけど!その本おもしろそう、読んでみますね」

左隣の女性はスマホをいじりはじめると、

「買いました!」

と、目を輝かせた。

キモチワルい自分を受け入れてほしい。心の穴を埋めてほしい。モテるモテないで悩んでいる人が抱えている問題の中核の話に10秒で行きついてしまう上にその場で本まで売れてしまうところが、よく売れている本の凄いところというか、二村さんが書いたモテ本のキャッチーさと奥深さだろうか。僕の性風俗エッセイ本なんて、「会社の昼休みにピンクサロンに行ったったwww」という2chスレのまとめのWeb広告に辛うじて表示されるくらいなのに!

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山下素童

1992年生まれ。現在は無職。著書に『昼休み、またピンクサロンに走り出していた』『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』。

Twitter@sirotodotei

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