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彼女が僕としたセックスと動画の中のセックスは完全に同じだった──ゴールデン街で店番をする風俗嬢から突然のDM

「お尻。お尻を強く握ってください」

自宅は誰かを招き入れるような部屋にはなっていなかった。デスクトップPCを置いた机とゲーミングチェア、それからベッドが置いてあるだけだった。

部屋に入ってそのままベッドに座ると、ひとつの会話もなしに彼女が全体重をかけてこちらに倒れかかってきて、そのままキスをした。彼女ははじめから思いきり舌をいれてきた。彼女の口内はアルコールで除菌されたみたいでなんの味もしなかった。服の上から体に触れると、彼女は急ぐように服を脱いで裸になった。僕も、彼女を追うように急いで服を脱いで裸になった。ベッドに仰向けに倒れた彼女に覆いかぶさるようにキスをしながら胸に触れると、

「お尻。お尻を強く握ってください」

乱れた前髪の隙間から僕の目を真っすぐ見ながら言ってきた。彼女の白い筋肉質なお尻を握ると、「うぅ、うぅ」と呻くように声を出しながら、「もっと強く」と言ってきた。言われるがままにもっと強く握ると、彼女はだんだんと白目に薄っすらと涙を浮かべて、何かを懇願するような目で僕の顔を見つめ続けた。少し涙目になったとはいえまだ表情に余裕がありそうだったから、さらにお尻を強く握るように指先に力を入ると、

「ゔゔうっ、ゔうっ」

先よりも強くて濁った呻き声をあげながら、全身を小刻みに震わせて、ベッドの上で体を時計回りに回転させるようにのた打ち回りはじめた。逃げるように動く彼女のお尻を逃がさないよう強く握り続けると、「やばい、やばい」と叫んで、彼女がベッドからフローリングの床の上に落ちた。どしん、と音を立てて人の体がフローリングに落ちてしまったことに少し動揺してしまったけど、ベッドから落ちた彼女のお尻から手を離さないよう、すぐに僕もベッドから降りてフローリングに膝立ちになって、床にうつ伏せになった彼女のお尻を強い力で握り続けた。

「やばい、やばい、やばい、無理無理無理、もう無理」

僕の手を制止するように彼女の手が僕の手を握った。その手の力からは制止をしたいという強い意志が感じられなかったから、

「本当にやめてほしい? でも、やめてほしい人の力じゃないよね」

と言って、彼女のお尻を強い力で握り続けた。

女の人にこんな言葉を投げかけたのも、お尻を強く握ったのも、初めてのことだった。僕の中に、彼女に対する好意も、彼女に自分のことを受け入れてほしいという気持ちも、全くなかった。そういう気持ちがなかったからこそ、彼女の顔を見て、彼女が何を求めているのかを考え、普段はやるはずのないことをやり、普段は言うはずのない言葉を口にすることができた。そういうことをする余裕があった。セックスをしていて、こんな気持ちになれたのは初めてのことだった。相手のことが好きという気持ちと、自分のことを受け入れてほしいという気持ちと、セックスをしたいという気持ちが全て一緒だったときの自分は、相手のことを考えてセックスをすることが全くできていなかったのだな、ということに今さら気づいた。

「後ろからしてほしい」

崖を上るみたいにベッドの上に這い上がった彼女が四つん這いになって言ってきたので、ゴムをして後ろから挿れて、彼女のお尻を握りながら腰を振って射精した。射精をしたあとも、彼女のお尻を握り続けた。

「やめて…、本当にやめて…」

彼女の声が消え入りそうになって、僕の手を離そうとする手に能動的な力が籠ってきたところで本当にやめてほしいのだと思って、お尻を握るのはやめにした。

「すごい上手いんだね。力加減が、すごくよかった」

5分ほどベッドの上で死んだように項垂れていた彼女が、呼吸が落ち着いて喋れるようになったところで言ってきた。

「上手くはないと思うけど。相性が良かっただけじゃない?」
「そっか。ねぇ、今日こういう風になるって最初から思ってた?」
「 セックスするってこと? 全然思ってなかったよ。なんで?」
「いや、別に」

どうしてそんなことを聞いてくるのだろう、と思った。こういう風になると最初から思ってたかどうかなんて、重要なことだろうか。

「こういう風になるって最初から思ってた方がよかった?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど」

彼女の返事は釈然としなかった。

彼女は、僕がセックスが上手い人で、今日セックスをすると僕が最初から考えていた。そんな風に目の前の現実を解釈したそうだった。それは僕には過大評価にしか思えなかった。というより、現実の解釈として誤っているようにしか思えなかった。セックスがよかったのは偶々その日の2人の相性が良かっただけであって、今日セックスをしたのも2人の気分によって偶々そうなっただけ。そう解釈することはできないのだろうか。自分のことを自分よりも知っていて、自分の未来を見通している、そんな必然を約束してくれる神様みたいな存在が世界にいてほしいのだろうか。セックスをした相手のことを、そうした神にでも仕立てたくなるのだろうか。

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山下素童

1992年生まれ。現在は無職。著書に『昼休み、またピンクサロンに走り出していた』『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』。

Twitter@sirotodotei

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