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彼女が僕としたセックスと動画の中のセックスは完全に同じだった──ゴールデン街で店番をする風俗嬢から突然のDM

『▶体験動画を見る』

脱ぎ捨てた衣類をひとつずつ探して、すべて着終わったころにはもう朝の6時になっていた。高円寺に住んでいるという彼女は総武線で帰るというから、大久保通りを歩いて大久保駅まで送っていった。改札の前まで送って、「じゃ、気をつけてね」と言うと、彼女が開いた手の平をこちらに突き出してきて、その手と何度かハイタッチした。開いた手の向こう側にあった彼女の顔は、笑顔なのか、寂しいのか、ちょうどその中間くらいの、くしゃっとした表情をしていた。

かなりアルコールが残っていたから塩分が欲しくなって、大久保通りのセブンイレブンでカップ麺を買って家に帰った。お湯を入れたカップ麺をデスクトップPCの前に置いて、彼女が働いている風俗店のプロフィールページを開いた。

【名前】ゆら
【3サイズ】T162 B:84(D) W:56 H:83
【年齢】23歳
【性感帯】お尻
【好きな食べ物】ラーメン
【趣味】読書、AV鑑賞
【将来の夢】ありません
【得意なプレイ】教えてください
【タバコ】吸いません
【タトゥー】ありません
【S度・M度】0%・100%

プロフィールの顔写真にはモザイクがかかっていた。モザイクからはみ出た輪郭の形や、色の白い肌、ブルーブラックのロングヘアから、モザイクの向こう側の彼女の顔や表情がありありと浮かんできた。プロフィールの一番下に『▶体験動画を見る』というバナーがあったのでクリックすると、風俗情報サイトに掲載されている彼女のプレイ動画に飛んだ。20分近くあるその動画を見ていたら、カップ麺を口に運ぶ手が止まって、いつの間にか言葉を失うような気持ちになっていた。

プレイ動画の中の彼女がしていたセックスは、さっきまで僕が自宅で彼女としていたセックスとほとんど同じだった。

「お尻を揉んでください」
「ゔゔうっ、ゔうっ」
「後ろからしてほしい」
「やめて…、本当にやめて…」
「上手なんですね。力加減がすごく良かった」

動画の中の彼女がするプレイの内容、表情、相手の男にかける言葉、そのほとんど全てがさっき自宅でした彼女とのセックスと同じだった。得体の知れない何かが喉に詰まったような息苦しさを覚えた。ショック、を受けているのだと思った。どうして自分がそんな気持ちになったのか考えてみると、セックスというものは、自分にだけ見せてくれるその人の姿だ、と思い込んでいる自分がいることに気がついた。彼女のプレイ動画を見たことによって、そうした幻想が打ち砕かれたのだ。彼女はセックスで僕にしか見せない姿を見せてくれたのではなく、動画として世界中に公開されてる姿を僕の前でも見せていただけに過ぎなかった。

動画を見ていたら、彼女が何をしているのか急に気になってきた。何を呟いているのかを見ようと彼女の日常用のTwitterアカウントを覗くと、10分ほど前に、黒いスープの醤油ラーメンが真上から無機質に撮られた写真がツイートされていた。高円寺に着いてから、どこかのラーメン屋さんでラーメンを食べているようだった。その写真を見ながら、また彼女に会いたいな、と思った。

 *

「よかったら、明日飲みましょ!」

風俗店のホームページの出勤時間を確認して、彼女の出勤がない日の前日にLINEをすると、その日は予定があって無理、と言われた。風俗店の出勤が無い日を狙って連絡をするというのは安直な考えだったな、と思った。

「今週は空いてる日がないから店番の日に飲みに来て!」

と言われたので、彼女がゴールデン街の店番をしている日に会いに行くことにした。

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どうしたら正しいセックスができるのだろう――

風俗通いが趣味だったシステムエンジニアの著者が、ふとしたきっかけで通い始めた新宿ゴールデン街。
老若男女がつどう歴史ある飲み屋街での多様な出会いが、彼の人生を変えてしまう。

ユーモアと思索で心揺さぶる、新世代の私小説。

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山下素童

1992年生まれ。現在は無職。著書に『昼休み、またピンクサロンに走り出していた』『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』。

Twitter@sirotodotei

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