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彼女が僕としたセックスと動画の中のセックスは完全に同じだった──ゴールデン街で店番をする風俗嬢から突然のDM

付き合わないけどセックスはする男?

「どうする?帰る?」

店を出て、ゴールデン街のアーチ看板をくぐって花園交番通りまで出ると、彼女が聞いてきた。

「酔っぱらって眠くなってきたので帰ります。僕、あっちに自転車があるので」

駐輪場のある靖国通りの方を指差すと、「私もタクシーそっちで拾うわ」と彼女が言ってきた。そのまま花園交番通りを南に向かって横並びに歩くと、右手に花園交番が光を灯しているのが見えてきた。交番の前には、長い木の棒を地面に突き刺すように持っている警察官がひとり立っていた。それまで同じペースで隣を歩いていた彼女が交番の前を通ると急に早歩きになって、僕のことを置いていくようにずんずん前へ歩いていった。

「なんで交番の前を歩くとき早歩きになるの」

急に自分だけの世界に入ってしまったような彼女がおかしいように思えて、交番を通り過ぎたところで少し笑いながら突っ込みを入れると、

「えっ、私、早歩きになってた?」

彼女が振り返りながら言ってきた。自分が振り返らなければならないほど前を歩いているその状況にすら気づいていないような顔をしていた。

また横並びになって歩き直して靖国通りまで出て、歩道の脇に設置された駐輪場に止めていた自転車を取り出した。「じゃ、僕、家こっちだから」と言って花園交番通りを来た方に戻ろうとすると、「やっぱ私もそっちでタクシー拾うわ」と彼女が言うので、自転車を引きずりながらまた横並びに歩くことにした。さっき通った交番の前を歩くとき、彼女はまた早歩きになった。

「ほら、早歩きになってるじゃん」
「え? わかんない。なんで?」

眉を八の字にさせながら、自分のことなのにまるで他人事みたいに聞いてきた。「いや、知らんわ」と返すと彼女は表情を無くした。そのまま真っすぐ歩くと、道の左手に最初に待ち合わせしたファミリーマートが見えた。ファミリーマートの方を左手で指差しながら「水でも買う?」と聞いてその手を下ろすと、下で待ち構えていた彼女の右手が僕の左手を握った。

「家って歩ける距離?行っていい?」

僕は、付き合わないけどセックスはする男に選ばれたんだ、と思った。「いいよ」と応えて、そのまま手を繋いで歩いた。右腕一本で自転車を引きずるのが大変なことに気づかれないようにしながら、大久保にある僕の自宅に向かった。

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新刊紹介

山下素童

1992年生まれ。現在は無職。著書に『昼休み、またピンクサロンに走り出していた』『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』。

Twitter@sirotodotei

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