よみタイ

始まりは30年後。それじゃ、もう遅い

それでもやっぱり都市への集中は続いていく

――最近、移住の話もよく耳にするようになりましたが、都市と地方でどのような変化が起きているのでしょうか?

「生き方や価値観に未来を指し示すあり方が、都会ではなく地方に存在するようになってきたということで、これはある意味初めての動きだと思います。ずっと都心集中が進んできて、最近ごく一部の動きとして、ウェルビーイングや新しい価値観をイメージしたときに、地方のほうが面白いと考える人が出てきました」

――確かに周辺でも、地方に行って畑を始めたり、実家に戻って家業を継いで新しい形にしたりする人の話をよく聞くようになりました。

「本来クリエイターと呼ばれる人たちは、“もっと世の中がこうあったらいいのに”という気持ちを形にしていく人たちのことですが、70年代や80年代の“もっと感覚的に豊かだったらいいのに”という意味での“おしゃれ”が、クリエイティブそのものであるように一般的には伝わっていきました。だからか、以前は都会的でファッショナブルであることをクリエイティブと呼ぶトーンが強かったように思います。そこから最近になって、あるべき生き方や社会のあり方を表現したり体現したりしようと思ったときに、東京よりも地方の方が新しい豊かさを育める要素や環境があるという考えのもと、移住を始めるクリエイティブな人たちが確かに出てきました。とはいえ、全体としてはやはり都市集約が進行していくと思います」

――一部の人たちが地方に新たな価値を見出して移住しているものの、全体のトレンドとしては二極化が進んでいくということですよね。都会に関していうと、なんだか最近、街が歪になってきた気がします。どこも同じように見えるし、個性がなくなってきました。どうしてこんなことになっているのでしょうか?

「今の状況において、不動産会社が利益や株価を維持するために何をするかというと、たとえば、無駄なスペースを削ったり、高い家賃を出せるチェーン店を入れたりする方が、やっぱり楽に利回りが高くなって儲かるんですよね。ただ一方で、大手資本もマーケットの支持を得るために、例えばスターバックスも京都の町家をそのまま使ったりするようになりましたよね。渋谷も以前のようにひたすら効率を追求したビルを建てるだけではなく、街の魅力を保つための工夫をするなどの動きが出てきています。これは、人間が求める“最適化”の意味が少し変わってきたということだと思うので、街も世の中も今後ひたすらつまらなくなっていくとは思っていません。とはいえ飲み屋が並ぶ横丁がなくなっていくという流れはこれからも続いていくでしょうね」

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林厚見

林 厚見(はやしあつみ)/株式会社スピーク共同代表
東京大学で建築を学んだ後、同大学院を経てマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。その後、コロンビア大学に留学し、建築大学院の不動産開発科を修了。日本に戻ってきてからは不動産ディベロッパーでの経営企画などを経て現職に。「東京R不動産」、「toolbox」の運営以外にも、建築、不動産、地域の開発や新規事業のプロデュースなども手掛ける。

藤原綾

ふじわら・あや
1978年東京生まれ。編集者・ライター。
早稲田大学政治経済学部卒業後、某大手生命保険会社を経て宝島社に転職。ファッション誌の編集から2007年に独立し、ファッション、美容、ライフスタイル、アウトドア、文芸、ノンフィクション、写真集、機関紙と幅広い分野で編集・執筆活動を行う。東京出身。編集者・ライター。「FM きりしま」パーソナリティ、第一工科大学非常勤講師として霧島でも活動中。

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