2021.8.27
始まりは30年後。それじゃ、もう遅い
それでもやっぱり都市への集中は続いていく
――最近、移住の話もよく耳にするようになりましたが、都市と地方でどのような変化が起きているのでしょうか?
「生き方や価値観に未来を指し示すあり方が、都会ではなく地方に存在するようになってきたということで、これはある意味初めての動きだと思います。ずっと都心集中が進んできて、最近ごく一部の動きとして、ウェルビーイングや新しい価値観をイメージしたときに、地方のほうが面白いと考える人が出てきました」
――確かに周辺でも、地方に行って畑を始めたり、実家に戻って家業を継いで新しい形にしたりする人の話をよく聞くようになりました。
「本来クリエイターと呼ばれる人たちは、“もっと世の中がこうあったらいいのに”という気持ちを形にしていく人たちのことですが、70年代や80年代の“もっと感覚的に豊かだったらいいのに”という意味での“おしゃれ”が、クリエイティブそのものであるように一般的には伝わっていきました。だからか、以前は都会的でファッショナブルであることをクリエイティブと呼ぶトーンが強かったように思います。そこから最近になって、あるべき生き方や社会のあり方を表現したり体現したりしようと思ったときに、東京よりも地方の方が新しい豊かさを育める要素や環境があるという考えのもと、移住を始めるクリエイティブな人たちが確かに出てきました。とはいえ、全体としてはやはり都市集約が進行していくと思います」
――一部の人たちが地方に新たな価値を見出して移住しているものの、全体のトレンドとしては二極化が進んでいくということですよね。都会に関していうと、なんだか最近、街が歪になってきた気がします。どこも同じように見えるし、個性がなくなってきました。どうしてこんなことになっているのでしょうか?
「今の状況において、不動産会社が利益や株価を維持するために何をするかというと、たとえば、無駄なスペースを削ったり、高い家賃を出せるチェーン店を入れたりする方が、やっぱり楽に利回りが高くなって儲かるんですよね。ただ一方で、大手資本もマーケットの支持を得るために、例えばスターバックスも京都の町家をそのまま使ったりするようになりましたよね。渋谷も以前のようにひたすら効率を追求したビルを建てるだけではなく、街の魅力を保つための工夫をするなどの動きが出てきています。これは、人間が求める“最適化”の意味が少し変わってきたということだと思うので、街も世の中も今後ひたすらつまらなくなっていくとは思っていません。とはいえ飲み屋が並ぶ横丁がなくなっていくという流れはこれからも続いていくでしょうね」