先日、空港での待ち時間に漫画『火の鳥』を読み返していました。

人間の業、生命の本質、時間感覚、仏教観、宇宙観などなど様々な思想思考が散りばめられた手塚治虫のライフワークと言える伝説的名作『火の鳥』。学ぶべきところの多い作品ですが、私はこの作品で特に「認識の重要性」を見出しました。

人を愛するも憎むも認識次第

オムニバス形式で各話独立して話が展開されている(実は繋がっているけれど)『火の鳥』ですが、どの話にも共通して登場するのが「誤解による過ち」です。
例えば手塚治虫文庫全集『火の鳥』4巻「我王」の回では(印象的な話なので覚えている方も多いでしょう)、痛み膨れ上がった鼻をよくするために薬を塗り込んでくれた速魚(分かりにくいでしょうが女性の名前です)に対して、我王は誤解から「薬ではなく毒をつけている」と勘違いして殺してしまいます。
殺した直後に過ちに気づき、我王はひどく後悔するのですが、ここにも「認識の重要性」が隠れています。

主人公である我王は部下から「こりゃあ毒ですぜ、たぶん」と言われて認識がガラリと変わります。
今まで従順で自分にこれ以上なく尽くしてくれた愛する速魚が、急激に自分を殺そうと企む憎らしい存在に変化します。これにより我王の「速魚を愛する」という普段の行動が「速魚を殺す」という行動に変化するわけです。
上記の通り、この認識は誤りで、後悔を伴う結果となるのですが。

認識の違いが行動も結果もまるで違うものへと変化させる

結果は行動から生まれます。
行動は思考から生まれます。

この論は、過去本連載でも繰り返し説明してきたことです。今までと違う行動せずには今までと違う結果は望めない…当たり前のことですね。
毎日同じようなルーティンを続けていたら、成績も給料も地位も変わることはありません。違う行動をとるからこそ、違う結果が生まれます。
「昨日と違う明日を送ること」で我々は人生を豊かにすることが出来るのです。

では「行動」はどのように変わるのか、それは「思考」から変わります。
行動とは考えた結果の思考が反映されたもの。
無意識でいれば無思考でいれば、当然のことながら昨日と同じことをひたすら繰り返すでしょう。意志を持って思考するからこそ行動は変化するのです。つまり行動を変えたくば思考を変えなければならないのです。

では肝心の「思考」はどのように変わるのか、それは「認識」です。
認識により世界の捉え方が変わった時に思考は急激に変化します。上の例で言えば我王は「鼻に塗っているものが薬ではなく毒だった」という認識の変化で、「速魚が憎い」という思考に変化し、「速魚を殺す」という行動を行い、「後悔する」という結果に至ったわけです。

もう少し『火の鳥』の例を挙げましょう。
同じく4巻「我王」の話です。
我王に襲われ右腕の機能を失った彫刻家の茜丸、彼は当初激しい苦悩にさいなやまされます。
世間に認められた天才彫刻家である茜丸は、我王に右腕を斬られたことでその技術も地位も失うことを想像し絶望します。
しかしお寺の僧に「水で岩を彫ることもできる」と諭され、茜丸の認識はガラリと変化します。
「まだ一本腕があるんだ」と希望を見出し努力を重ね、再び技術を手にします。

これもまた認識の変化により行動が変わった例です。「右腕の機能を失った」ことを「もう右腕がない」と捉えるのか、それとも「まだ左腕がある」と捉えるのか。
この認識の違いで行動も結果もまるで違うものに変化します。

結果は環境や条件や生まれで決まったわけじゃない、「あなた」が決めていることだ

我々は物理的な観念に縛られ、世界を唯一無二で絶対的なものとして信じています。しかし本当に世界は一つしかないのでしょうか…??

世界は捉え方によりまるで違うものに変化します。
悪夢を見た時に「なんて恐ろしい夢を見てしまったんだ、凶事が起こるに違いない。」と考える人もいれば「なんて恐ろしい夢を見てしまったんだ、現実じゃなく夢で本当によかった」と考える人もいるでしょう。
仮に物理的に世界が共通のものだったとしても、世界を映像として変換し、解釈し、思考するのは我々の「脳みそ」なのです。
つまり脳の動き次第で世界はどのようにでも捉えられるのです。極端なたとえをするなら黒いカラスがいたとしても、脳が「白い」と判断すれば我々は「白いカラスだ」と認識します。

世界は唯一無二で絶対のものじゃない、極めて揺るぎやすく、いかようにも変化できる不安定なものなのです。