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二宮寿朗「1980年生まれ。戦い続けるアスリート」
不惑が間近に迫る年齢になりつつも、変わらず戦い続ける1980年生まれのアスリートたちに、スポーツライター二宮寿朗氏が迫るこの連載。
サッカーの中村憲剛選手、バスケットボールの田臥勇太選手、野球の館山昌平投手に続く、4人目のアスリートは、サッカーの大黒将志選手。
初回は、現在所属する栃木SCへの想い、前回は、少年時代のエピソード、そして今回は愛犬ラオウとの物語――

栃木SC 大黒将志を本気にさせ日本代表まで導いた存在。愛犬ラオウとの出会いと別れの17年

愛犬ラオウの話になると熱を帯びる。信頼できる動物病院の有無により移籍を拒否したというエピソードも!(撮影/熊谷貫)
愛犬ラオウの話になると熱を帯びる。信頼できる動物病院の有無により移籍を拒否したというエピソードも!(撮影/熊谷貫)

札幌で出会った愛犬ラオウの存在が、大黒を本気にさせた!

2017年シーズンに、悲しい別れがあった。
17年もの長い間を一緒に過ごしてきたチワワの愛犬ラオウが息を引き取った。人間で言えば80歳を超えていた。安らかな旅立ちだった。
飼い主と飼い犬の関係を超えた“同志”の知られざるエピソード――

2001年、プロ3年目の大黒将志はいまだ無名に近かった。
危機感を募らせていた彼は、少年時代から過ごしてきたガンバ大阪を飛び出してフランスワールドカップで日本代表を率いた岡田武史監督がいるコンサドーレ札幌にレンタル移籍した。
自他ともに認める「気分屋さん」。闘志に火がつくかと思いきや、ムラのあった練習態度が改善されていたとは言い難かった。

「ヤル気があるときはもちろんちゃんとやっていましたけど、どうも気分が乗らないときは適当にやってしまうことがあって……まあ、今振り返ってみれば、なんですけど。岡田さんが見ている前でも、シュート練習でループばっかりとかね」

トップ下には「正直うまいなあって」思った山瀬功治がいた。フォワードでも出番が訪れない。ヤル気が続かない現状を見ていた岡田監督からは苦言を呈された。

「練習のなかでちゃんと試合をイメージしろ。その中でプレーをしてみろ」

そうやな。練習を試合と思えばええやん。
そして、もう一つ、心にグサリと刺さった言葉がある。

「そうやってチンタラやってて、あと半年チンタラやってガンバに帰ったらええと思ってんのやろ。そんなんじゃガンバに戻っても、絶対うまくいかねえぞ」

自分の甘い心を見透かされていた。

意識改革の前触れを掴むと同時に、決断したことがあった。
それは、犬を飼うこと。
どんな犬にするかを決めていたわけではなかった。札幌市内のペットショップを回って、「フィーリングの合いそうな犬」を探した。しかし毎日探しても、なかなかいない。
あきらめかけたそのときに小さいチワワと運命の出会いを果たした。

大黒が述懐する。

「会ってすぐに気に入りました。ペットショップからラオウを連れて帰るときに、きょうだいと引き離されて車の中で泣いていたんです。でもそのうちにいびきかいて寝始めていて、コイツは大物やなって思いましたね」

ラオウと名付けた愛犬との生活が始まった。
パチンコ通いをやめた。深夜までやっていたテレビゲームもやめた。

「俺、朝食を食べずに、いつも練習に行ってたんですよ。でもラオウが朝ごはん食べるから、俺もじゃあ一緒に食べよか、とか、夜更かしさせたらアカンなと思って夜11時には一緒に寝よかって。ラオウのおかげであれだけ不規則だった生活が、規則的に変わったんですよ。
ラオウはお手とか教えてもすぐに覚えるし、ほんまに賢くて、可愛くてしょうがなくて。俺、ラオウを幸せにせなあかんなって、このワンちゃんをしっかり食べさせなあかんなって、練習も毎日、真剣になっていったんです」

ラオウの存在が、大黒を本気にさせた。
岡田から言われたように、練習から試合をイメージした。
ムラもなくなった。100%、練習にぶつけた。試合にはなかなか出られなかったものの、勝負強くなっていく実感を持つことができた。紅白戦でも練習でも、ゴールを重ねた。ラオウが、ストライカーで勝負する覚悟を与えてくれたのだった。

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二宮寿朗

にのみや・としお●スポーツライター。1972年、愛媛県生まれ。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社し、格闘技、ラグビー、ボクシング、サッカーなどを担当。退社後、文藝春秋「Number」の編集者を経て独立。様々な現場取材で培った観察眼と対象に迫る確かな筆致には定評がある。著書に「松田直樹を忘れない」(三栄書房)、「サッカー日本代表勝つ準備」(実業之日本社、北條聡氏との共著)、「中村俊輔 サッカー覚書」(文藝春秋、共著)など。現在、スポーツ報知にて「週刊文蹴」(毎週金曜日)、Number WEBにて「サムライブル―の原材料」(不定期)を好評連載中。

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