よみタイ

鈴木涼美「○○○な女~オンナはそれを我慢している」
よみタイでの大好評連載「アラサー女がそんなことで喜ぶと思うなよ」(今夏、書籍化予定)を終えた鈴木涼美の次なるフェーズは、オンナ目線の女性論。ふと見渡せば、耳に目につく、いろんなタイプ・○○○な女たち。女の敵は女じゃないけど、ちょっとどうなの、それでいいの、な現代女性像を浮き彫りに。

長文の女〜メンヘラの強靭なメンタルの話

「(あなたが)お菓子なら頭から食べてしまいたいくらい可愛い」と書いた文豪もいたが、恋をしている人というのは普段持つ文才の十分の一ほども発揮することができずに、後から読めば送った方も送られた方も非常に気恥ずかしい、詩的で耽美的で、かといってそれが上手いこといってはいない、陳腐な表現をしがちである、というのは今も昔もそんなに変わらない。

このうえなくセンスが落ちる恋愛中に最も饒舌になるのが人間

昔、まだガラケーの携帯メール機能を使っていた頃は、彼氏や彼女からもらった、或いは自分が彼氏や彼女に送った恋文的なメールに鍵マークをつけて保存している人が結構いたが、あれも機種変の後などにちょっと見返してみると、何を高校生の分際で「今まで生きてて一番」とか「たぶんこれからも色々あるけど◯◯が一緒にいてくれる限りは絶対ずっと」とか「苦しくて辛くて嫌な気持ちが消えてくれなくて胸がぎゅーってなって死んじゃうかと思った」とか言ってるんだ死にたい、という地獄を味わう。

これからある色々なんていうのはお前の考える色々の1兆倍色々だし、本当の「胸がぎゅー」は30代になって体力が落ちてるのにこの電車を乗り逃したら物理的に或いは社会的に殺されるっていう状況で階段をダッシュした後に感じるやつであってプリーツのミニスカをひらひらさせた高校生が感じるようなものではないんだよ、キミ。

「苦しい」とか「辛い」とかいかにも借りてきたような言葉を使って物語の主人公になったつもりで送った恋文の相手はしかも、15年後、30歳手前でサーフィン留学と称して豪州に行ってしまうようなしょうもない男だったことが判明することもあるので、そうなってくると本格的な地獄でもある。

よって恋に落ちてしまった場合には普段握っている筆を置き、何も書かずにひたすら気持ちがカムダウンするのを待つというのが賢い選択だと思うのだけど、人間というのは全体的に残念な生き物なので、最も値段も高くて混雑しているGWに旅行に行き、一番詰めて勉強すべき試験前日に部屋を掃除して、楽しみにしていた温泉旅行当日に生理になり、このうえなくセンスが落ちる恋愛中に最も饒舌になる。

酒気帯びで携帯触るとさらに危険、の図
酒気帯びで携帯触るとさらに危険、の図

普段ブログもツイッターも書かないような人がいきなりタイムラインにポエティックな散文を書き散らし、待ち合わせの連絡にしか使わないラインで彼との会話を友人に報告し、よせばいいのに恋のお相手に手紙やメールをしたためたくなって仕方ない。
本当に残念なことであります。

2メートルくらいありそうな長文ラインでメンヘラ認定

ただそれは本当にわりとみんなそうなので、弱みを握り合っているという意味ではフェアでもある。

あなたも赤っ恥、私も赤っ恥、芥川も赤っ恥、みんなも社長さんも赤っ恥。「天使なんかじゃない」の翠ちゃんだって、「恋をしたらみっともないこと沢山あるよ」と言っていた。

かといってそれが世の中のすべての長文の恥ずかしいLINEを免罪する事実かといったら当然違う。
世の中には「恋をしたらきっとみんな恥ずかしいことしちゃうもんだよね」という慰めが通用しないレベルの長文ラインを、恋のお相手、そして恋の相談相手にも送っちゃううっかりさんがいて、それの多くはオンナであるのも事実。スクロールしていくと2メートルくらいありそうなラインは、メコン川のように人間の業を流してくれるわけもなく、濁流が如く色んな情念をごちゃまぜに飲み込んで相手に向かって突撃し、突撃を受けた人は走って逃げる。

差出人を重い女とかメンヘラとか認定しながら。

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鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中からキャバクラ嬢として働きだし、20歳でAVデビュー、出演作は80本以上に及ぶ。2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、セックスに関するエッセイやコラムを多数執筆。
公式Twitter → https://twitter.com/suzumixxx

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