よみタイ

カニより出でてカニよりカニカニしいカニカマ

あらゆる選択肢のなかから、食の楽しみを自由に得られるようになった現代日本で、
本当の「おいしさ」はどこにあるのか——?
『異国の味』『東西の味』に続く、稲田俊輔による「味3部作」連載、第3弾!

魚料理編の3回目は、SFの世界?みたいな日本の食品開発力を感じさせる、水産加工品の進化について。

干物・練り物・明太子 〜魚離れと企業努力の狭間で起こる生々しいドラマ〜

 最近、街中で「干物専門店」をやたらと見かけます。一種のブームと言ってもいいのかもしれません。僕が認識している限りでは、このムーブメントは、2010年頃から徐々に盛り上がってきた記憶があります。それがここに来て遂に大ブレイク、といったところでしょうか。正直に言うと、僕はこの種の業態を、どちらかというと冷ややかに見てきました。どうしても「干物は家で焼いて食べるもの」という固定観念が抜けなかったのでしょう。
 前回、家庭料理において刺身以外の魚料理は衰退しつつある、という話をしました。干物も例外ではないようです。焼き魚系のおいしさの決め手は、なんといっても、パリッと焼けた皮目とふっくらした身のコントラスト。生の魚から焼くよりは干物の方が家庭でも扱いやすいはずではありますが、それでもちょうどいい具合に焼こうと思うと結構神経を使うということなのでしょう。それに昨今は、サバや鮭ハラスなど、脂が乗りきった干物に特に人気が集まっています。そういうものを焼くとなると、やはり生魚同様、煙や匂いが気になりそうです。
 しかし干物専門店の人気ぶりを見ると、日本人はまだまだ干物好きなのだろうと思います。確かに他の業態よりはお客さんの平均年齢がやや高めにも見えますが、老若男女を問わず幅広い層から支持されてもいます。
 かつては家庭で調理されるのが当然だったものが、外食や中食にバトンタッチされるというのはよくあることです。逆に麻婆豆腐やパスタなど外食中心だったものが、便利なレトルト調味料の助けも借りつつ家庭料理になっていくこともある。そういう移り変わりは常にあるということですね。万物は流転する。

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 日本人の魚離れということで言うと、それを食い止めるためにこんな新商品を作りました、みたいな水産メーカーによるプレスリリースをよく目にします。調理の手間を省き、骨も気にしなくていい、食べやすい水産加工品がさまざまに工夫されています。
 そんな水産加工品の元祖と言っていいものが、かまぼこやちくわ、さつま揚げといったいわゆる「練り物」でしょう。安価で食べやすく、今はバリエーションも豊富で、何かしらを冷蔵庫に常備している家庭はかなり多いのではないでしょうか。
 ちくわに関して、とても印象に残っているエピソードがあります。これはある方が子どもの頃に食べていた、おばあちゃんの料理について語ったものです。ちょっと要約して書いてみます。

おばあちゃんが使う食材は、畑で採れた野菜がほとんどでした。それ以外は、近所の豆腐屋さんで買う豆腐や揚げ、おから、そして時々来る行商人から買う乾物類。その行商人はちくわも扱っており、おばあちゃんはそれも買い、薄く切って煮物に入れていました。
おばあちゃんの味付けは、基本的に味噌か醤油のみ。砂糖やみりんなどの甘みが加えられることはまずありませんでした。なので煮物にそのちくわが入る時だけが、料理にうっすらとした甘みを感じる唯一の機会でした。

 これは戦前の話などではありません。せいぜい6、70年前といったところでしょうか。昔の食文化が残りやすい農村の話とはいえ、我々はずいぶん遠いところまで来てしまったんだなあ、という感慨があります。
 しかし、遠いところまで来たとはいえ、ちくわの役割はそう変わっていない気もします。薄く切って味出しに使うのは、煮物だけでなく炒め物にまで幅が広がっているのではないでしょうか。僕はちくわをちゃんぽんに入れるために、一本ずつラップに包んで常に冷凍しています。
 味出しと言えば、さつま揚げも同様に使われますね。そしてこちらはスライスよりは、丸のままおでんなどに使われるケースが主流なのではないでしょうか。おでんをその他の煮物とわかつものは、練り物から自然と染み出す独特のダシの味と風味なのではないかと思います。
 

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 そんな練り物コーナーで、少し前から進行している、ある変化にお気づきでしょうか。「そのまま焼くとおいしいです」とアピールされる商品が確実に増えているのです。これはひとつには、揚げ油の質の向上や酸化を防ぐパッケージングで熱湯による油抜きが不要になったという、技術的進化がベースとなっていると思われます。そしてそれに加えて、嗜好の変化の話でもあるのでしょう。
 かつての日本の家庭料理においては、それこそ先ほどのおばあちゃんのように、煮物があくまでおかずの中心、なんならほぼ全てでした。しかし高度経済成長期以降は、焼き物や炒め物が、あっさり取って代わった感があります。こと焼き物においては、表面がパリッと、あるいはカリッとした、特徴ある食感と香ばしさが求められます。
 メーカーとしては、煮物に使われる機会が少なくなったのなら香ばしく焼いて食べてもらえばいいではないか、と考えるのは実に良い目の付け所だと思います。そしてパッケージをよく見ると、焼くための手段はオーブントースターが推奨されていることがほとんどです。家庭における「焼く」という調理法の中で、最も気軽な方法ですね。そういう工夫で、地味に、しかし確実に需要を開拓しているということにもなりそうです。
 ちなみにこの「オーブントースターで焼くとおいしいです」は、練り物コーナーだけでなく、豆腐コーナーの揚げなどでもよくみられるようになってきました。クリスピー食感の時代、とでもいったところでしょうか。

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稲田俊輔

イナダシュンスケ
料理人/飲食店プロデュ―サー/「エリックサウス」総料理長。
鹿児島県生まれ。京都大学卒業後、飲料メーカー勤務を経て円相フードサービスの設立に参加。
2011年、東京駅八重洲地下街に南インド料理店「エリックサウス」を開店。南インド料理とミールスブームの火付け役となる。
SNSで情報を発信し、レシピ本、エッセイ、小説、新書と多岐にわたる執筆活動で知られる。
レシピ本『南インド料理店総料理長が教える だいたい15分! 本格インドカレー』『ミニマル料理』シリーズ、エッセイ『おいしいもので できている』『食いしん坊のお悩み相談』『異国の味』『東西の味』、小説『キッチンが呼んでる!』、新書『お客さん物語』『料理人という仕事』『食の本 ある料理人の読書録』など著書多数。

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