よみタイ

ザリガニが飼育禁止に!? 人も在来種も、外来種さえも不幸にする「外来生物問題」を考える

ほぼ全ての外国原産ザリガニが規制対象に

では、何が特定外来生物に指定されたのか?

簡単に言うと、アメリカザリガニをのぞく外国を原産とするザリガニ類が、ぜーんぶ特定外来生物に指定されたということです(厳密には、ザリガニ科、アメリカザリガニ科、アジアザリガニ科、ミナミザリガニ科からアメリカザリガニとニホンザリガニをのぞいた全種)。

糸と棒とスルメなどがあれば簡単に釣れるアメリカザリガニ。釣ったものは飼育業務の餌料として利活用した。(写真/大渕希郷)
糸と棒とスルメなどがあれば簡単に釣れるアメリカザリガニ。釣ったものは飼育業務の餌料として利活用した。(写真/大渕希郷)

「え? アメリカザリガニとウチダザリガニ以外は定着していないのでしょ?」
と思われた方もいるかと思います。その通りです。

しかし、まだ定着はしていなくても、ペットや産業活動目的で輸入され、飼育されているものもいます
それらに関しても、規制がかかるということです。
規制前から飼育をしている場合は申請が必要となります。

特に、重要視されているのは、規制前にすでに相当数輸入・飼育されている「ミステリークレイフィッシュ(マーブルクレイフィッシュ)」と呼ばれているザリガニです。
こちらは、単為生殖といってメスだけで繁殖することができます。
1匹いれば殖えていけるわけですから、そのリスクは想像に難くないでしょう。

アメリカザリガニが規制対象外となった理由とは?

さて、ここで一旦、アメリカザリガニについて話を戻します。

今回特定外来生物入りは見送られたものの、緊急対策外来種であるアメリカザリガニは、1927年日本に侵入しました

この侵入した理由がまたすごい。
1918年に食用として持ち込まれたウシガエルの、養殖に使うエサとして移入されたのです。
しかし、ウシガエルはアメリカザリガニを専門に食べることはなく、国内のあらゆる小動物を捕食して、現在は特定外来生物指定されています……。

そうして侵入したアメリカザリガニは、日本各地で繁殖し、今や国内でもっとも見かけるザリガニ類となっています。
みなさんが近所の川原などで捕まえたことのあるザリガニは、ほぼ間違いなくアメリカザリガニだと言ってよいでしょう。
ニホンザリガニは北日本(現在は北海道、青森、岩手、秋田のみ)の山間部の冷涼な水域にしかいないからです。
つまり、日本の原風景、子どもの原体験と一般に思われている“ザリガニ釣り”は、実は外来種、それもわりと近年のものなのですよ……。

このようにアメリカザリガニは、すでに日本中で広く飼育されており、指定することで、川や池に大量に捨てられるなどかえって混乱を招くおそれがあるため、今回は規制対象にはなりませんでした。

しかし、植物含む水生生物に対する捕食や競合、さらにはザリガニカビ病(ザリガニペストとも呼ばれるザリガニ類特有の感染症、ニホンザリガニへのリスク大)媒介など、環境への影響は大きいと考えられています。

1 2 3 4

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Facebookアカウント
  • よみタイX公式アカウント

新刊紹介

大渕希郷

おおぶち・まさと●どうぶつ科学コミュニケーター
1982年神戸市生まれ。京都大学大学院博士課程動物学専攻、単位取得退学。その後、上野動物園・飼育展示スタッフ、日本科学未来館:科学コミュニケーター、京都大学野生動物研究センター・特定助教(日本モンキーセンター・学芸員 兼任)を経て、2018年1月に独立。生物にまつわる社会問題を科学分野と市民をつなげて解決に導く「どうぶつ科学コミュニケーター」として活動中。
夢は、今までにない科学的な動物園を造ること。特技はトカゲ釣り。
著書に『新ポケット版 学研の図鑑絶滅危機動物』『新ポケット版 学研の図鑑 爬虫類・両生類』(いずれも学研教育出版)、『絶滅危惧種 救出裁判ファイル』『動物進化ミステリーファイル』(いずれも実業之日本社)、『どうぶつ恋愛図鑑』『へんななまえのいきもの事典』(いずれも東京書店)など。最近は、「こども環境地球儀ハトホル」(渡辺教材教具)など教材開発にも関わる。愛称はぶっちー。
公式ホームページ: http://m-ohbuchi.com/

週間ランキング 今読まれているホットな記事