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ザリガニが飼育禁止に!? 人も在来種も、外来種さえも不幸にする「外来生物問題」を考える

世界初の「どうぶつ科学コミュニケーター」として、講演活動やフィールドワーク、執筆活動など幅広く活動中の大渕希郷さん(通称・ぶっちー)。
動物まみれのめまぐるしくも愉快な日常とは……!?  
生き物の知られざる生態についても、自筆のイラストとともに分かりやすく解説します。
動物の専門家によるお仕事&科学エッセイです。

前回は、動物園で絶対にやめてほしい迷惑行為についてお伝えしました。
今回は、外来生物の問題について解説します。

外国産ザリガニ類が「特定外来生物」に指定

11月2日から、ペットとしても人気の外国産ザリガニ類が「特定外来生物」に指定されたことをご存知でしょうか(ただし、アメリカザリガニを除く。詳しくは後述)。

ザリガニの口の上には、おしっこが出る穴「触角腺」がある。お腹のあたりにはオスにだけ「交尾肢」が。(イラスト/大渕希郷)
ザリガニの口の上には、おしっこが出る穴「触角腺」がある。お腹のあたりにはオスにだけ「交尾肢」が。(イラスト/大渕希郷)

外来生物とは、意図的かどうかは別として人間によって本来の生息地より移入され、移入先にすみついて繁殖し(定着し)、数を増やしている生物のこと。ですから国間でだけでなく国内でも起こり得ます(北海道や伊豆諸島に定着したアズマヒキガエルなど)。
外来種、移入種、侵入生物も同じ意味合いで使われる言葉です。

「特定外来生物」は特に海外起源の生物を対象としたもので、これに指定されると、飼育や輸入・販売が原則、禁止されます。
許可なく野外に放ったり、植えたり、まいたりも禁止です。
これらに反すると、最大3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金です(外来法:第三十二条)。これは個人が犯した場合であって、法人がやってしまうと最大1億円以下の罰金となります。

なお、前回お話したグリーンイグアナについては、石垣島への定着が確認されており、重点対策外来種(対策の必要性が高いもの、旧:要注意外来生物)とされています。

そんな「特定外来生物」に、皆さんにとっても身近な生物であるザリガニが指定されたわけです。

在来のニホンザリガニは希少生物

しかし、ザリガニとひと口に言っても、種類はいろいろ。

まず、日本には在来種として「ニホンザリガニ」がいます。
当たり前ですが、これは在来種ですから今回の特定外来生物指定とは無関係です。
ただし、環境省レッドリストで絶滅危惧Ⅱ類(VU)に指定されるほど非常に希少であり、飼育も冷水が必要など一般家庭では困難であることから、万が一見つけた場合は研究機関や博物館等に連絡するなどし、指示を仰ぐことがよいかと思います。

アメリカザリガニ。体色が赤以外のものもある。(写真/大渕希郷)
アメリカザリガニ。体色が赤以外のものもある。(写真/大渕希郷)

在来種であるニホンザリガニを除くと、すでに国内に居ついている外来のザリガニは、「アメリカザリガニ」と「ウチダザリガニ」です(国立環境研究所 侵入生物データベースより)。
このうち、ウチダザリガニは、すでに2006年より特定外来生物に指定済。
一方、アメリカザリガニについては、緊急対策外来種(対策の緊急性が高く積極的に防除を行う必要があるもの、旧:要注意外来生物)という扱いで、今回の改正でも特定外来生物入りは見送られました。

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大渕希郷

おおぶち・まさと●どうぶつ科学コミュニケーター
1982年神戸市生まれ。京都大学大学院博士課程動物学専攻、単位取得退学。その後、上野動物園・飼育展示スタッフ、日本科学未来館:科学コミュニケーター、京都大学野生動物研究センター・特定助教(日本モンキーセンター・学芸員 兼任)を経て、2018年1月に独立。生物にまつわる社会問題を科学分野と市民をつなげて解決に導く「どうぶつ科学コミュニケーター」として活動中。
夢は、今までにない科学的な動物園を造ること。特技はトカゲ釣り。
著書に『新ポケット版 学研の図鑑絶滅危機動物』『新ポケット版 学研の図鑑 爬虫類・両生類』(いずれも学研教育出版)、『絶滅危惧種 救出裁判ファイル』『動物進化ミステリーファイル』(いずれも実業之日本社)、『どうぶつ恋愛図鑑』『へんななまえのいきもの事典』(いずれも東京書店)など。最近は、「こども環境地球儀ハトホル」(渡辺教材教具)など教材開発にも関わる。愛称はぶっちー。
公式ホームページ: http://m-ohbuchi.com/

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