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大渕希郷「動物ふしぎ観察記」

動物園のBL事件簿! ブチハイエナのメスに立派な“ペニス”があった!?

世界初の「どうぶつ科学コミュニケーター」として、講演活動やフィールドワーク、執筆活動など幅広く活動中の大渕希郷さん(通称・ぶっちー)。
動物まみれのめまぐるしくも愉快な日常とは……!?  
生き物の知られざる生態についても、自筆のイラストとともに分かりやすく解説します。
動物の専門家によるお仕事&科学エッセイです。

前回のテーマは、ワニの音声コミュニケーションでした。
今回は、ブチハイエナの謎に包まれた"性"態についてのお話です。

突然ですが、みなさんは、「BL」と聞くと何を思い浮かべますか?

ボーイズラブでしょうか。

我々動物の専門家の間でBLといえば、Breeding Loan(ブリーディング・ローン)
動物園における繁殖(ブリーディング)を目的とした動物の貸し借り(ローン)のことを指します。

動物園は希少で貴重な野生動物の保全施設・繁殖研究施設でもあるため、この「ブリーディング・ローン」のほかにも「譲渡」「寄贈」「購入」「交換」、計5つの方法のいずれかで動物を受け入れています。

繁殖等が目的ですから、どの方法で導入するにしても、雌雄判別は重要です。
ところが稀に、メスをレンタルしたはずだったのに、やってきたのがオスだったとか、雌雄ペアで導入したはずなのにペアではなかったとかいうことが起こります。

例えば2014年に札幌円山動物園で起きたブチハイエナのケース。
ブチハイエナは、ハイエナ科全4種のなかで最大種。一般的に皆さんが「ハイエナ」と呼んでいるハイエナは本種であることがほとんどです。
このブチハイエナの雌雄ペアを、韓国の動物園との動物交換により導入したものの、この2頭がなかなか繁殖行動を見せませんでした。そこで、詳しく調べてみたところ、なんとどちらもオスだったことが判明!
この時はBL(ブリーディング・ローン)ではなく動物交換だったわけですが、あわやBL(ボーイズラブ)事件が起きるところでした。

なぜこんなことが起きたのか。
それは、ブチハイエナのメスにはペニス(のようなもの)があるから!

正確には、これはメスのクリトリスが発達したもので、擬陰茎と呼ばれるものです。
長さは平均で17cmもあり、オスと同様に尿道が通っていて、ここからおしっこが出ます。
しかもこの擬陰茎は勃起もするのです。
さらに、擬陰嚢と呼ばれる器官までついています。メスの擬陰嚢には脂肪が詰まっているのですが、外見はオスのタマタマそっくりです。
そのため、ブチハイエナは、見た目だけでは専門家でも雌雄の区別が難しいのです。

しかも、肛門腺が発達しており、これが女性器のように見えるために、長らく両性具有の動物だと考えられていました。

見た目ではオスメスの判断が難しいブチハイエナ。(イラスト/大渕希郷)
見た目ではオスメスの判断が難しいブチハイエナ。(イラスト/大渕希郷)

ハイエナの出産は超過酷!

出産時は擬陰茎から子供が生まれます。
つまり、この擬陰茎は産道も兼ねているのです。

赤ちゃんは1.5Kgほどの大きさ。
これに対して産道となる擬陰茎は直径3~4センチほど。
出産時には擬陰茎の太さが2倍ほどになるとはいえ、あまりに産道が細すぎます。

くわえて擬陰茎のせいで、60センチもの産道を進まねばなりません。
これは同じくらいの大きさの他の哺乳類に比べて2倍もの距離です。その道中、ねじれコース、180度ヘアピンカーブまであります。

それに対し、ブチハイエナのへその緒の長さは12~18センチしかありません。つまり、生まれ出る前に臍の緒を引きちぎるか、あるいは胎盤ごと引きずって出ることになります。
いずれにしても、途中からはそのせいで酸素が供給されません。

いや、どんだけ過酷やねん!

母体の方ももちろん大変です。
分娩には48時間かかることもあり、苦痛に耐えねばなりません。
そもそも産道というには細すぎる擬陰茎。最終的に、その直径は通常の2倍にふくれあがり、亀頭部分にいたっては3倍にもなります。
でも結局、それでも足りないので、最終的に擬陰茎は突然裂けてしまうのです!
その傷は癒えても、裂け目はそのまま。擬陰茎、要するにクリトリスの下側に沿って亀裂が残るそうです。
こうなると研究者からすると雌雄判別が楽なので助かる……そうですが、そんなことブチハイエナさんには口が裂けても言えません。

男性読者の皆さん、自分のおち○ち○から赤ちゃんが出てくることを想像できますか?
しかも裂けてしまうなんて……。考えただけで恐ろしい苦しみですよね。

実際に、ブチハイエナは細く長い特殊な産道を持っているがゆえに出産のリスクが高く、初産の死産率は60%。母体も5頭に1頭が初産の傷が原因で死に至ります。

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大渕希郷

おおぶち・まさと●どうぶつ科学コミュニケーター
1982年神戸市生まれ。京都大学大学院博士課程動物学専攻、単位取得退学。その後、上野動物園・飼育展示スタッフ、日本科学未来館:科学コミュニケーター、京都大学野生動物研究センター・特定助教(日本モンキーセンター・学芸員 兼任)を経て、2018年1月に独立。生物にまつわる社会問題を科学分野と市民をつなげて解決に導く「どうぶつ科学コミュニケーター」として活動中。
夢は、今までにない科学的な動物園を造ること。特技はトカゲ釣り。
著書に『新ポケット版 学研の図鑑絶滅危機動物』『新ポケット版 学研の図鑑 爬虫類・両生類』(いずれも学研教育出版)、『絶滅危惧種 救出裁判ファイル』『動物進化ミステリーファイル』(いずれも実業之日本社)、『どうぶつ恋愛図鑑』『へんななまえのいきもの事典』(いずれも東京書店)など。最近は、「こども環境地球儀ハトホル」(渡辺教材教具)など教材開発にも関わる。愛称はぶっちー。
公式ホームページ: http://m-ohbuchi.com/

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