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クラスメイトの机に置かれた手紙

クラスメイトの机に置かれた手紙

 担任の話では、親戚に不幸があったため葬式に出ているのだという。
 それから三日ほどタクヤは欠席を続けた。その間、手紙をどう処理したらいいものか、僕はすっかり困ってしまっていた。
 
 ようやく登校してきたタクヤは、明らかにやつれきっていた。身内の死がよほどこたえたのだろうか。
 迷いはしたが、早く踏ん切りをつけたかった僕は、ラブレターの件を伝えることにした。
 恋愛話でからかえば、少しはタクヤの気もまぎれるんじゃないか。
 バカな僕は、そう勘違いしてしまったのだ。 

 放課後、タクヤを学校裏の路地に誘い出し、あの封筒を手渡した。中身を見てしまったことも、正直に伝えた。
 タクヤは声も出せないほど驚いた様子だった。
 じっと僕を見つめた後、ようやく震える手で封筒を受けとった。
「……これ、お前が開けたんじゃないのか」 
 それだけは違う、信じてくれ、と僕は必死で弁解した。
 タクヤも納得したようで、便箋を取り出し、さっと目を通した。
 そこで、予想もしなかった事態が起きた。タクヤは、いきなり泣きだしたのだ。
 嗚咽しながら路上にうずくまる彼を見て、僕は自分が大きなミスをしたと気づいた。
「ごめん、ごめん、悪かった、ごめん」
 とにかく謝り続けているうちに、ようやく落ち着いたタクヤが、事情を説明してくれた。
 
 先日亡くなったのは、タクヤの従妹の女の子だったという。
 昔から重い病気を患っていたので、周囲も覚悟していた死ではあった。
 しかし彼女は、従兄であるタクヤに、好意を寄せているような言動を繰り返していた。どこまで本気だったのかどうか。病床で心が不安定になっていただけかもしれない。
「でも当然、そんなの拒否するしかないよな。この手紙だって……」
 ──確かにこれは、二週間前に彼女からもらったものだ。でも面倒なことになるのが嫌で、封すら開けていなかった。読んだのも今が初めてだ。ずっと部屋の机にしまっていたはずなんだ。なのになんでお前が……。
 
 あの手紙はラブレターではなく、遺書だった。
 一時間ほど経った頃、僕らは二人で、近くの海岸に行った。
 そこで封筒ごとビリビリに破き、紙片を海に流した。
 それが正しい行為だったかどうかは、今でもわからない。

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7月の『日めくり怪談』特集一覧
7月2日 夜道を歩く女性の二人組が向かう先
7月4日 設置されては撤去されるブランコの秘密
7月6日 クラスメイトの机に置かれた手紙
7月9日 誰も来ないはずの男子トイレで目にしたもの
7月13日 息子に見えている母の顔
7月15日 内線電話から聞こえてくる声
7月19日 祖母に禁じられた遊び
7月22日 僕にだけ聞こえてくる音
7月27日 この子は大人になる前に死ぬから
7月30日 隙間から入り込もうとするもの
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吉田悠軌

よしだ・ゆうき
1980年東京都出身。怪談、オカルト研究家。怪談サークル「とうもろこしの会」会長。オカルトスポット探訪マガジン『怪処』編集長。実話怪談の取材および収集調査をライフワークとし、執筆活動やメディア出演を行う。
『怪談現場 東京23区』『怪談現場 東海道中』『一行怪談』『禁足地巡礼』『日めくり怪談』『一生忘れない怖い話の語り方 すぐ話せる「実話怪談」入門』『現代怪談考』『新宿怪談』『中央線怪談』など著書多数。

Xアカウント @yoshidakaityou

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